今回はシンガポールで出産、子育て、仕事をしているエミさんにインタビューをしてきました。東南アジアでは住み込みのメイドさんが家にいるのも珍しくないという話を聞いたことはありますか?異国の地でどのように他人のサポートを得ているのか、子育て事情は日本とどう違うのか詳しくお伝えします。

国際色豊かなシンガポール

ーエミさんのプロフィールを教えて下さい。

イギリス人の夫、6歳の娘、3歳の息子がいます。日本の大学卒業後にイギリスでの生活を経て、シンガポールに移住し、今年で10年になります。日中は投資とコンサルタントを行う、日系ベンチャー企業で、社長アシスタントと美容業界のマーケティングの仕事をしています。


ーシンガポールはどんな国でしょうか?

面積は東京都と同じくらいの国です。日本企業も多くシンガポールに進出してきており、2,000~3,000社あると言われています。人口は国全体で約554万人、そのうちシンガポール人と永住者が約390万人、外国人が164万人なので、海外からの居住者が多いですね。中華系の人が多く、お国柄なのかみんな子どもに優しく、子どもといると知らない人でも話しかけてきてくれたり、レストランで食事の際にもお店の人が面倒を見てくれたりします。電車ではすぐに子どもに席を譲ってくれますし、子どもって可愛いよねという雰囲気が伝わってくる国です。外出してもオムツ替えの施設は充実していますし、ほとんどの建物にエレベーターが完備されています。一年を通じて気温が30度前後と、とても過ごしやすいです。

ーシンガポールではデートナイトの習慣はありますか?

シンガポールでは、駐在員も地元の人も、子供ができてからも夫婦2人で出かける習慣があります。うちの場合は上の子が生まれた当初、ベビーシッターを頼まないと、夫と2人でディナーや映画には出かられなかったのですが、なるべく2週間に1度位は夫婦で出かけるように心掛けていました。でも正直なところ出産後は寝不足で余裕がなくなり、夫婦関係がギスギスしていました。喧嘩もかなりしてましたね。だからこそ意識して疲れていても、家の外のリラックスできる環境で2人の時間を持とうと努力することが大切なんだと思います。
ヘルパーがいなかった時期、夜の外出時は事前にベビーシッターをお願いしてディナーや映画に出かけていました。私が当時お願いしていたベビーシッターは1時間当たり16SGDで、日本円だと約1200円でしたので、相場はもう少し前後するかと思います。

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トライアスロンの応援をするお子さんとご主人

シンガポールのヘルパー文化

ー東南アジアでは住み込みのメイドさんを雇う家庭は多いと聞きますが実際は?

シンガポールではメイドさんのことをヘルパーと呼んでいます。(以下ヘルパーと呼ぶ)私の周りでは住み込みのヘルパーを雇っている家庭が半分以上です。駐在員としてシンガポールに来ているので、周りに頼れる家族がおらず、ヘルパーがとても心強い存在です。ヘルパーの国籍はフィリピンが多く、その他に近国のインドネシア、ミャンマー、スリランカ出身の方もいます。

ーどんな方がヘルパーの仕事をしているのでしょうか?

貧しい家庭出身で、高い教育を受けられなかった女性がほとんどです。毎月の少ない給与から母国の家族に仕送りをし、家庭を支えているヘルパーがほとんどです。地方出身で自国では職が無く、やむを得ず海外でヘルパーとして働いているのが現状です。住み込みのヘルパーを雇うことは、彼女達の人生をより安定したものに、そして仕送りを待つ母国の家族の生活を支えるということに繋がるのだなと考えています。我が家のヘルパーは未婚ですが、7人兄弟の長女で両親を早くに亡くしていることもあり、現在フィリピンで大学に通う2人の妹さんの学費と生活費を負担しています。自分が大学進学できなかったので、妹達は大学に進学させたいと頑張って学費を払っているんです。

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エミさん夫妻は夜間学校に通いたいというヘルパーの望みをサポート。夜間学校卒業式の写真。

ーヘルパーを雇うのに費用はどれくらいかかるのでしょうか?

ヘルパーの給料の相場は、月に500~650シンガポールドル(78円/SGD)なので日本円に換算すると約4万~5万円ですね。このお給料の他に食費で月100~150SGD、日本円に換算すると1万円前後です。あとは政府に収める税金が月250SGD、日本円で2万円ほどです。また国から義務付けられているのがヘルパーの健康診断です。半年に一度健康診断費用を各家庭で負担し、政府に届け出る必要があります。諸々の費用を合わせて月平均8~9万円で住み込みのヘルパーが雇えます

ーヘルパーの勤務体制はどうなっていますか?

ヘルパーは週1日休みがあり、週6日は朝から晩まで家事や子どもの世話をしてくれます。我が家の場合、保育園に子どもを送るのは私の役割なので、私の出社後に掃除、洗濯、食料の買い出し等をしてくれます。16時過ぎに上の子がスクールバスで帰宅するので、ヘルパーが子どもをマンションの前でお迎えし、私が下の子と18時頃に帰ってくるまで一緒に遊んでもらったり、ご飯を食べさせてくれたりしています。週6日大人が3人いるので、頼れる家族のいない外国生活でとても助かっており、ストレスが少なく子育てがしやすいです。

ー生活スペースはヘルパーとどのように分けているのですか?

ヘルパーの文化が浸透しているので、マンション内の私たちの居住スペースとは別に、ヘルパーの生活スペースが設けられています。狭いですが、ヘルパーのベッドを置くスペースとシャワー、トイレもついています。

ーヘルパーを雇うことにしたきっかけは何でしょうか?

夫が他人と生活するのは抵抗があるということで、子どもが生まれてから1年間はヘルパーなしの生活を送っていました。子供が6か月になった頃から、週に2、3回託児所に預けて自分の時間を作るようにしていました。子どもを預けている間に仕事をしたり、ランニング、ジム、フェイシャルマッサージやネイルサロンなどリラックスする時間を持つようにしていました。こういった時間をもつことで、自分の中にゆとりが生まれていくんだなと痛感しましたね。ヘルパーを雇っている家庭が周囲に多かったこともあり、週に数回息抜きの時間を設けていましたが、我が家にもヘルパーがいてくれればもっと楽になるのにと思っていました。子どもが生まれて1年経った頃、知人のオーストラリア人夫婦が帰国するということで「うちのヘルパーと面接してみない?」と声を掛けてくれたんです。面接してみて人柄の良さから、この人ならと夫もOKを出してくれたので、念願のヘルパーを迎えることになりました。

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ヘルパーのローズさんと息子さん

ーヘルパーを雇うことに不安はありませんでしたか?

他人に子供を預けることに、もちろん最初は不安がありました。でもそれ以上のメリットがあると思っていたので、ヘルパーを雇うことに踏み切りました。恐らく誰もが怪我や事故の心配をされますよね。でもヘルパーといても親といても、子どもはいつ怪我をするか分かりません。それよりも嘘をつかれたり、隠し事がある方が問題だと思うので「子供に何か大変なことがあっても、怒らないから正直に本当のことを教えてね。大事な子供を預けるあなたのことを信頼しているよ」と伝えています。もちろんこの5年で問題もありましたが、その度にその場で話し合って、ヘルパーの言いいたいことも聞いて、私たちの意見も理解してもらうよう、信頼関係を大切にコミュニケーションを取ってきました。子どものことで気になることがあれば、その場その場でお互い伝え合うようにしています。

ーヘルパーの面接の際、特に気をつけてチェックしたことは何でしょうか?

一緒に生活するパートナー選びなので、自然体で話すことでしょうか。直感でのこの人と合う、合わないという判断も大切だと思います。ヘルパーから要求が多すぎないか、素直に受け答えできるかというのもチェックポイントかもしれません。うちのヘルパーは同時期に6家庭からオファーがきていたようですが、我が家の立地条件、面接当日の子どもの大泣きなど、良い印象を持たれていないだろうと思っていたんです。でも彼女は面接する中で「ヘルパーを見下すことなく、対等に話してくれたことが嬉しかった。だからこの家庭で働きたいと思った」と話してくれました。初めてのヘルパーの面接だったので、重点的に質問した内容はないのですが、大切な子どもを預ける人なので、子どもと遊ぶ様子を見て、子どもが好きかどうかを気にして見ていました。また休日にはバレーボールをしているという元気で笑顔の明るい女性だったので、それも決め手となりましたね。一緒に生活を始めて5年になるのですが、彼女がいなかったら働きながら今のように心の余裕を持って、2人の子育てはとても無理だったなと思っています。

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エミさんの家族写真

子育てに関する国からの補助は、ほぼ無い

ーシンガポールでは子育てに関する補助金は出ますか?

外国人に対する国からの補助金は無いですね。シンガポール人に対しては、手厚い補助や制度があります。外国人にとっては医療費も教育費も高く、もちろん日本よりも高額です。出産方法については諸外国同様、無痛分娩が主流ですが、日本円に換算すると100万円ほどで、健康保険でカバーされない限り全額自己負担となります。

ー日本より優遇されている制度は何かありますか?

所得税、法人税は日本より優遇されています。あとは政府機関の様々な情報が簡単な英語でウェブサイトに掲載されているので、仕事のこと、税金や年金の生活に関すること等、必要な情報が得やすく、市場が諸外国へ開けている印象です。政府機関に連絡しやすい体制も整っています。ビジネスの面では優位な点が多く挙げられますが、生活面では物価が高いので、日本の方が外食も生活費も安くすむと思います。

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家族みんなで楽しんだハロウィーン

シンガポールの保育園事情

ーお子さんは現地の保育園に通っているのですか?

6歳の娘はインターナショナルスクールに通っています。クラスには英語、中国語それぞれの言語しか話さない先生がいて、その先生に合わせて子ども達は言語を使い分けています。その前はローカルの保育園に通っていました。ローカルの保育園でも、英語と中国語のそれぞれの言語しか話さない先生が各クラスにいました。3歳の下の子も上の子と同じローカルの保育所に通っています。

ースクールの決め手は何でしょうか?

園長さん自身が園内の案内してくれて、教育方針やプログラムの説明をきちんとしてくれたのには驚きました。英語と日本語の二ヶ国語体制で、外で遊べるエリアがあり、夕方6時まで預かってくれるところに魅力を感じました。夫と話し合った結果、意見が一致したのでそこに決定しました。

ー国籍の違うご主人と教育方針で意見が分かれることはないですか?

どこの家庭も教育方針でパートナーとぶつかるこがあると思います。我が家も例に漏れずです。保育園を決める際、私は日系の幼稚園に通わせたいと思っていたのですが、夫が日本の礼儀作法はいいと思う反面、子ども自身の自由度が少なく、型にはめる教育になりがちなのが気掛かりだと言われ、意見が割れてしまいました。何度も話し合ううちに気付いたのですが、どこに入れるのかが大事なのではなく、妥協点を見つけて、お互いの意見を尊重し合うことが大事なんだなと気付きました。

ーシンガポールで待機児童問題はあるのでしょうか?

待機児童問題はないようです。働く女性、子育てをしながらの共働きを支援する国なので、今でも保育園は数多くありますが、シンガポール政府は更に保育所の数を増やす方針です。それは選択肢を増やすためであり、さらにママが働きやすい社会となるようにと考えてのことだそうです。女性・ママが働きやすい社会=国の力にもなりますので、合理的なシンガポールらしい方針と言えるとも思います。

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インターナショナルな誕生日会

アウトソーシング可能なものはアウトソーシングすべき

ーワークライフバランスについてどのように考えていますか?

どのような子育てをしたいのか夫婦で話し合い、他人の意見は気にせず自分のプランを実行していくことで、オリジナルな生活のバランスが掴めると思います。子育ては20年、もしかするとそれ以上の長期プロジェクトだと思うので、私はいかに合理的に、そして楽をするか考えています。ランニング、ジム、友人との時間等、気分転換の時間を意識して持つように心掛け、母になっても1人の女性として輝いていたいと思うのです。私は夫婦仲良くいることが、子どもの幸せにも繋がると考えています。

ー育児に関して実親、ご主人と意見が分かれて悩むことはないですか?

私の母親世代は家事も育児も全て1人でこなすのが当たり前だったと思うんですね。なので実母からは私の子育てに関して、驚かれたりすることがよくあります。でも「私は私!」と開き直ることも必要だと考えています。人それぞれ価値観が違って当たり前ですよね。私たち夫婦は、話し合いをする際に、子育ての目標を共有することにしました。「独立した、自分で考えられる、優しい人間になってもらいたい」その目標をお互い共有することで、何か決断に迷ったとしても答えが見つけやすくなるのかなと考えています。

ーベビーシッターの文化を日本に浸透させるには、どうしたらいいでしょうか?

ママは何かにつけて我慢したり、自分のことを後回しにしてしまいますよね。常に子育てに関する悩みは尽きません。でも便利なサービスも増えて、食事1回分の料金でベビーシッターさんを雇える世の中なので、キッズラインのようなベビーシッターサービスをお試しで利用してみては?と思います。自分の時間が数時間あるだけでも、どれだけ心に余裕が生まれるか、いつも頑張っているママ達に実感してほしいです。

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趣味のランニングをするエミさん

ー読者にメッセージをお願いします。

ママだけが家事も育児も、ときに仕事も全てやるなんて無理があるのではないでしょうか?外から日本を見たときに、子育てに関する社会の空気感に違和感を感じました。電車では妊婦さんや子連れの家族に席を譲らない、子供が泣いていれば迷惑そうな視線が投げかけられる。でも子どもは社会の宝で、将来を担う大切な世代です。ママ達は周囲のサポートや理解の少ない中、周りに迷惑をかけないようにというプレッシャーと孤独感を感じているのだろうなと、日本のニュースを通じて感じています。シンガポールではヘルパーも、デートナイトも、母親が働くことも当たり前の文化です。でもそれは色々なことをアウトソーシングできる仕組みと、空気感があるから出来ることなのだと思います。日本でも子育てをする家庭は、アウトソーシングできるものを予算内で利用してみてはどうでしょうか?お試しでベビーシッターを利用したり、家事をアウトソーシングしたり、何か頼りどころを見つけておくことが、夫婦の時間を増やし、家族のバランスを保つために必要だと思います。

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娘さんの七五三

ーいかがでしたでしょうか。

ベビーシッターを利用したことがないママは是非試しに一度利用してみて下さい。お子さんのお世話だけでなく、家事までお願いできるんです。エミさんのように頼りどころを見つけておくことで、万が一の場合、ちょっとした気分転換をしたい時に、安心のサポートが受けられます。