年長の秋、自治体から届く「就学時健康診断のお知らせ」(就学前健診と呼ばれることもあります)。多くの家庭にとっては、小学校入学が近づいてきたことを実感する行事です。

ところがその健診で、「発達について、一度就学相談を受けてみませんか」「気になる点があるので、あらためて面談を」と言われることがあります。園では特に何も言われてこなかったのに、と戸惑う保護者は少なくありません。

この記事では、就学時健診で何を見られるのか、「要相談」と言われたときにそれが何を意味するのか、そしてその後どう動けばいいのかを、特別支援学級・通常の学級・特別支援学校での教員経験を20年以上持つ、中村藍さんの監修のもとで整理します。

就学時健診とは?いつ、どこで、何のために行われるのか


画像:小学校の校舎
就学時健康診断は、学校保健安全法にもとづいて、翌年4月に小学校へ入学する子どもを対象に、市区町村の教育委員会が実施する健診です。実施時期は法令で原則「入学の4か月前(11月末)まで」と定められているため、多くの自治体で10月から11月にかけて(遅くとも12月まで)行われます。

会場は、入学予定の小学校であることが一般的です。案内は9月から10月頃に自治体から郵送で届きます(引越しや学区が選択できる地域の場合、入学予定の学校とは別の学校で受ける場合もあります)。

目的は、入学前に子どもの健康状態を把握し、治療が必要なものは入学までに治しておくこと、そして学校生活で配慮が必要な子どもを早めに把握して、適切な学びの場につなげることです。

当日の流れと、何を見られるのか


画像:健診を受ける子ども
自治体によって順番や内容は多少異なりますが、基本的な項目は次の通りです。

項目内容担当
内科検診栄養状態、心臓、脊柱・胸郭、皮膚など学校医
歯科検診むし歯、かみ合わせ、歯肉の状態学校歯科医
視力検査ランドルト環(Cのマーク)で測定教職員・養護教諭
聴力検査オージオメーターで聞こえの確認教職員・養護教諭
眼科・耳鼻科検診目の病気、耳・鼻・のどの異常の有無学校医(実施の仕方は学校・自治体による)
教育相談簡単な質問や絵を使ったやりとり、名前や年齢を言えるか、指示を聞いて動けるかなど教職員
面接保護者と子どもへの聞き取り。生活の様子、園での様子、アレルギーなど健康面の様子、気になることの確認教職員・管理職


学校によっては、子どもだけが在校生に連れられて各検査を回り、保護者は別室で説明を聞く形式もあります。

「教育相談」で見られていること

多くの保護者がもっとも気にするのがここです。内容は自治体によって差がありますが、多くは短時間の面談形式で、次のようなことを見ています。

・名前、年齢、通っている園を言えるか

・簡単な質問に答えられるか、会話のやりとりが成り立つか

・指示を聞いて、その通りに動けるか

・初めての場所、初めての大人に対してどう振る舞うか

・絵や図形を見て、同じものを選べるか、数を数えられるか

・一定の時間落ち着いて着席できるか

法令上は、知的障害の可能性に早めに気づくための項目と位置づけられています。ただし健診で行うのは短時間の簡易な確認であり、診断を行う場ではありません。気になる様子があった場合に、就学相談や詳しい検査につなぐための入り口です。

緊張して答えられなかった、機嫌が悪くて泣いてしまった、ということも普通に起こりますし、それだけで何かが決まることはありません。

結果の見方。「要相談」は何を意味するのか


画像:結果の通知を見る保護者
健診の結果は、その場で口頭で伝えられる場合と、後日書面で届く場合があります。たとえば次のような形で伝えられます(表現は自治体によって異なります)。

・異常なし:特に対応は不要

・要精密検査・要治療:視力、聴力、むし歯など、医療機関での確認や治療をすすめるもの。入学までに受診しておく

・就学相談のすすめ:発達や行動面で、学びの場について一度相談することをすすめるもの

この記事で扱う「要相談」は、この3つ目にあたります。自治体によって「就学相談をご案内します」「教育相談を受けてみませんか」「後日あらためてお話を」など言い方は違いますが、意味するところは同じで、「入学前に、この子にとってどんな学びの場がいいか、一緒に考えましょう」という提案です。

「要相談」は診断ではない

就学時健診で「要相談」と言われることは、発達障害の診断ではありません。健診の面接は教職員が担当することが多く、医師が診察して判断するものではありません。

また、「要相談」と言われた時点で、通常学級に入れないと決まったわけでもありません。就学相談は、あくまで選択肢を一緒に検討する場です。相談の結果、通常学級を選ぶ場合もあります。

「要相談」と言われたときに、まず知っておいてほしいこと


画像:考え込む保護者
「要相談」と言われた直後は、頭が真っ白になったり、「育て方に問題があったのでは」と自分を責めたりする保護者も少なくありません。動き出す前に、知っておいてほしいことを3つお伝えします。

1. 園で言われていなかったのは、珍しいことではない

「園では何も言われなかったのに」という戸惑いは、とてもよくあります。園は慣れた環境で、慣れた先生と、慣れた友達がいる場所です。そこでは目立たなかったことが、初めての場所で初めての大人と一対一になる健診の場では出ることがあります。

逆に言えば、小学校は園よりも「初めて」が多い環境です。健診でその様子が見えたことは、入学前に準備するきっかけとして受け取れます。

2. 案内が来たら、日程は早めに押さえる

就学相談は、自治体によっては春から受付が始まっていて、健診の時期には終盤に差しかかっているところもあります。健診後に案内された場合も、案内が来たら日程はなるべく早めに押さえてください。

とくに、特別支援学校への就学は都道府県教育委員会との手続きが必要で、自治体によっては就学相談の受付期限が早めに設定されています。健診の時点でその可能性を感じているなら、すぐに教育委員会へ問い合わせてください。

一方で、「様子を見ましょう」と言われて具体的な案内がなかった場合は、何をどう見ればいいのか分からないまま時間が過ぎがちです。気になることがあるなら、保護者側から就学相談を申し込むことができます。相談の窓口は、教育委員会や教育センターなどに設けられています。窓口の名称や申し込みの方法は自治体によって異なるので、自治体のホームページや就学に関する案内を確認するか、教育委員会に問い合わせてください。

相談の前に、お子さんの様子で気になる点をメモしておいたり、園の先生から見た様子を聞いておいたりすると、話が具体的になります。

3. 保護者の意見を聞いて合意形成をめざすのが原則。最終的に決めるのは市町村教育委員会

2013年の学校教育法施行令の改正で、「一定の障害があれば原則として特別支援学校」という考え方が改められ、本人・保護者の意見を聴いたうえで、障害の状態や教育的ニーズなどを総合的に判断して就学先を決める仕組みになりました。

あわせて文部科学省は、「市町村教育委員会が、本人・保護者に対し十分情報提供をしつつ、本人・保護者の意見を最大限尊重し、本人・保護者と市町村教育委員会、学校等が教育的ニーズと必要な支援について合意形成を行うことを原則とし、最終的には市町村教育委員会が決定することが適当である」という考え方を示しています。

つまり、教育委員会が一方的に決めるのではなく、保護者と話し合ったうえで決める仕組みです。話し合いがまとまらず、希望と異なる就学先が示されるケースがまったくないわけではありません。

だからこそ、保護者が選択肢の中身を知り、希望とその理由を伝えられるようにしておくことに意味があります。次の章から、その流れと選択肢を見ていきます。

次の一歩:就学相談の流れ


画像:面談の様子
就学相談は、市区町村の教育委員会(教育センターなどの名称の場合も)が窓口です。おおまかな流れは次の通りです。自治体によって順番や名称は異なります。

STEP1:申込・受付 健診で案内された場合はその案内に従って。自分から申し込む場合は教育委員会へ連絡。

STEP2:保護者面談 生育歴、園での様子、家庭での様子、保護者が気になっていること、希望を聞き取り。母子手帳や園からの資料、医療機関の記録があれば持参。

STEP3:行動観察・発達検査 心理職などが子どもの様子を観察したり、必要に応じて発達検査を行う。園への訪問観察をする自治体もある。

STEP4:学校見学・体験 通常学級、特別支援学級、特別支援学校などを見学。子どもと一緒に体験できる場合も。

STEP5:多くの自治体では、教育・医療・心理などの専門家で構成する委員会(名称は自治体により異なる)が、集めた情報をもとに意見をまとめる。

STEP6:委員会の意見を保護者に伝え、話し合いのうえで就学先を決める。就学先の通知は、小学校の場合は市町村教育委員会から、特別支援学校の場合は都道府県教育委員会から、1月末までに届く。

この間に保護者がやることは、面談で正直に話すこと、学校見学に行くこと、分からないことを聞くこと。それだけです。「うちの子をよく見せなければ」と構える必要はありません。むしろ困っていることを具体的に伝えるほど、入学後の支援を考えてもらいやすくなります。

就学先の選択肢は4つある


画像:教室の風景
就学相談で検討されるのは、主に次の4つです。文部科学省は、障害のある子どもとない子どもが、可能な限り同じ場で共に学ぶことを目指すとしています。そのうえで最も大切な視点としているのは、その子が授業の内容を理解し、学習に参加している実感をもちながら過ごせるかどうかです。

学びの場どんな場かどんな場合に検討されるか
通常学級「普通学級」「通常級」などとも呼ばれる。座席の位置や提示の仕方、教材などを子どもに合わせて調整する「合理的配慮」を受けることができる指導の工夫や合理的配慮があれば、集団の中で十分に学べそうなとき
通常学級+通級指導教室障害による学習上・生活上の困難を改善することを目的とした場。通常の学級に在籍して大部分の授業を学級で受けながら、週に1~数時間程度、別の教室で個別や小集団の指導を受ける。入学後の様子を見てから、学校と相談して利用を検討する場合もある通常の学級での学習におおむね参加でき、ことばやコミュニケーションなど、一部に特別な指導が必要なとき。

利用するかどうかは、医学的な診断の有無だけにとらわれず、総合的に判断される。
特別支援学級小学校内に障害の種別ごとに置かれる少人数の学級。子どもの状態に応じて特別の教育課程を編成できる。文部科学省は、原則として週の授業時数の半分以上を目安に特別支援学級で学ぶよう示している少人数の学級でよりきめ細かい指導が必要なとき
特別支援学校視覚障害・聴覚障害・知的障害・肢体不自由・病弱の子どもを対象とした独立した学校。障害の種類に応じた指導がなされ、専門の設備が整えられている。対象となる障害の種類と程度は法令で定められている。本人の状態や必要な支援、地域の体制などをふまえて総合的に判断される障害が法令の定める程度であり、教育的ニーズや本人・保護者の意見などをふまえて、特別支援学校で学ぶことが適当と判断されたとき
※文部科学省『障害のある子供の教育支援の手引』をもとに整理

大切なのは、どこが「いい学校」かではなく、その子が「学びやすい場」がどこかということです。

また、一度決めたら固定というわけでもありません。入学後の様子を見て、進級時などに学びの場を見直すことは制度上可能です。「最初の判断で全部が決まる」と思い詰めなくて大丈夫です。

学校とどう話すか


画像:教室
就学相談でも、入学後でも、保護者が学校に話をする場面は必ず出てきます。とはいえ、先生を前にすると「何から話せばいいのか分からない」「うまく伝わらなかった」と感じる保護者も多いものです。学校側も、限られた面談の時間で子どものことを理解しようとしています。お互いにとって話が進みやすくなる伝え方のコツを3つ紹介します。

「困っていること」を具体的に伝える

「発達が心配で」という言い方より、「初めての場所に入るときに固まって動けなくなる」「一度に2つ以上の指示を出されると混乱する」「音に敏感で、運動会のピストルの音で泣く」のように、場面と行動で伝えるほうが、学校側は対応を考えやすくなります。

「園でうまくいった方法」を持っていく

園で先生が工夫してくれていたこと、家でうまくいっている声かけ。それをそのまま伝えると、学校でも同じ方法を試してもらえます。入学前に園の先生に「小学校に伝えておいたほうがいいことを教えてください」と聞いておくと、材料が揃います。

希望と、その理由を言葉にしておく

「通常学級を希望しています。理由は、園でも集団の中で過ごせていて、本人も友達と一緒がいいと言っているからです」のように、希望と根拠をセットで伝える。学校側の意見と違ったとしても、話し合いの土台になります。

親が抱え込まないために


就学相談は、面談、検査、学校見学と、平日の日中に何度も足を運ぶことになります。共働きの家庭にとっては、それだけで負担です。下の子がいればなおさらで、面談に集中できない、見学に連れていけない、ということも起きます。キッズラインのシッターや家事代行は、こうした「平日の数時間」に使えます。

・面談や学校見学の日に、下の子を自宅で見てもらう

・相談で消耗した日の夕方だけ、家事代行を依頼する

就学相談の期間は、親が一番情報を集め、考え、判断する時期です。そこに集中するために、それ以外の手を減らす。それは手抜きではなく、子どもの就学のための準備の一部です。

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まとめ

画像:子ども
就学時健診の「要相談」は、診断でも、就学先の決定でもありません。「この子にとって学びやすい場を、入学前に一緒に考えましょう」という提案です。動き出すなら早めに、ただし焦らずに。選択肢の中身を知り、困っていることを具体的に伝え、希望とその理由を言葉にする。最終的に決めるのは教育委員会ですが、その前提にあるのは保護者との合意形成です。一人で抱え込まず、使える手を使いながら、入学までの数か月を進めてください。

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■参考
・学校保健安全法、学校保健安全法施行令、学校保健安全法施行規則
・学校教育法施行令
・文部科学省「学校教育法施行令の一部改正について(通知)」(平成25年9月1日)
・文部科学省「障害のある子供の教育支援の手引~子供たち一人一人の教育的ニーズを踏まえた学びの充実に向けて~」(令和3年6月)
・文部科学省「特別支援学級及び通級による指導の適切な運用について(通知)」(令和4年4月27日)
・公益財団法人日本学校保健会「就学時の健康診断マニュアル(平成29年度改訂)」
・公益財団法人日本学校保健会 監修、文部科学省初等中等教育局健康教育・食育課「学校のアレルギー疾患に対する取り組みガイドライン」(令和2年3月)

■監修者:中村 藍(なかむら あい)

宮城教育大学卒業。20年以上にわたり、公立小学校および特別支援学校で勤務。小学校では通常の学級の担任、特別支援学級担任、音楽専科を務める。また特別支援学校では小学部・高等部を担任した。

2023年に退職し、発達障害、不登校、教育DXなど幅広いテーマで取材・執筆を行う。文筆業のかたわら、保育園や小学校、福祉施設で音楽療法セッションを実施している。日本音楽療法学会認定音楽療法士。

著書に『発達障害&グレーゾーンの子 小学校生活の困りごと解決Book 学校の先生が教える!発達が気になる子のための困りごとヒント』がある。

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