出産目前や出産直後のママの中には、母乳について今一度基礎知識から知りたいと思っている人もいるのではないでしょうか。母乳にはメリットの他に、体調面のトラブルなどデメリットもあります。その上でどんな対策をしていけばよいのか、母乳以外にもミルク育児の選択肢もあることなどを、助産師が詳しく解説します。

母乳が出る仕組みは?しっかり出るのはいつから?


母乳育児
まずは、母乳が出る仕組みなど母乳に関する基礎知識からお話していきます。
母乳は赤ちゃんが生まれてすぐに出るようになるわけではないことや、母乳の出をよくするためのコツなども学んでおきましょう。

そもそも、母乳とは?


母乳とは、赤ちゃんを育てるためにママのおっぱいから出る乳汁のことをいいます。
母乳は、産後すぐ〜5日間ほど分泌される「初乳」、その後数日間の「移行乳」を経て「成熟乳」へと変化していきます。
初乳には免疫物質が多く含まれ、栄養成分も生後すぐの赤ちゃんに必要なたんぱく質量の割合が多いなど、特長があります。成熟乳になると脳を動かすエネルギーとなる乳糖の割合が多くなります。
このように母乳は赤ちゃんの成長に合わせて栄養成分も変化させていきます。

母乳が出る仕組み


ママの身体の中では出産直後に、妊娠継続のホルモンが出ている状態から母乳分泌や子宮収縮ホルモンが出る状態へと急激に切り替わります。
母乳分泌に関係があるのは、ホルモンの「プロラクチン」と「オキシトシン」です。
赤ちゃんがママのおっぱいを吸ったり搾乳などで乳首を刺激したりすると、「プロラクチン」が母乳を作るように脳へ司令を出します。次に「オキシトシン」がおっぱいに溜まった母乳を出すように司令を送り、母乳が分泌されます。

母乳を出すコツはあるの?


母乳を出すためには以下の4つを意識して育児をしていく必要があります。

①乳首を産後すぐに刺激する
②水分をしっかりとる
③血流をよくする
④休息をとる


①乳首を産後すぐに刺激する

母乳を出すためには、まず乳首への刺激が重要です。先ほどお話ししたプロラクチン、オキシトシンというホルモンは、乳首の刺激がきっかけで大量に分泌されるためです。
そのため、産後はできるだけ早く赤ちゃんに乳首をくわえさせるようにします。
また、乳首の刺激は日に最低でも8回は必要です。産院で「産後は3時間おきに母乳をあげましょう」とよく言われますが、これは1日最低8回くらい刺激しないと母乳分泌が増えないためです。
母乳の分泌を増やしたい人は、以上のことを意識して母乳を吸わせてみましょう。

<参考>
産後1か月時の母乳育児確立に関連する要因―産後授乳指導と母親の授乳行動に焦点をあてて


②水分をしっかりとる

母乳の元になるのは、実は血液です。産後は、出産中に出血をすることや産後の悪露により体内からは血液が減っている状態にあります。
そのため、産後は積極的に水分を摂取し、母乳の元になる血液量を保つ必要があります。少なくとも1日2Lは飲むようにしましょう。


③血流をよくする

全身の血の巡りが悪いと、おっぱいへ十分な血液を送り届けることができず、母乳が作られにくくなってしまいます。そのため、血流を良くすることも母乳分泌にとって重要です。
産後は1ヶ月間入浴ができないため、足湯をしたり、湯たんぽなどで手足や肩周りを温めたりすると良いでしょう。
特に背中の肩甲骨周辺は、慣れない育児や赤ちゃんの抱っこで凝り固まっていることが多いです。背中をほぐしたり温めるだけで、母乳分泌がUPする人もいます。


④休息をとる

実は、ママが疲れていたり強いストレスを感じたりしていると、母乳の分泌は減少してしまいます。
ストレスを感じると、母乳を出すためのホルモンの分泌が少なくなり、母乳の分泌が減ったりするだけでなく、産後うつの原因になったりもします。
赤ちゃんのために一番大切なのは、ママが幸せであることです。
疲れてるな、眠れないな、母乳の出が悪いな、と感じたら、それはストレスが溜まっているサイン。そんなときは、家族やベビーシッターなどに赤ちゃんを少し預けて、休息をとる時間を作るようにしてみてくださいね。


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母乳育児の割合は?みんなはどうしている?


ママたちは、完全母乳、混合栄養、ミルクのうちどのような割合で母乳を与えているのでしょうか。ここからは母乳育児の状況についてお話していきます。

母乳を与えているママは9割以上


厚生労働省によると、赤ちゃんへの栄養方法は、10年前に比べて母乳栄養の割合が増加していることがわかりました。
生後1ヶ月で完全母乳で育てているママは51.3%、生後3ヵ月では54.7%でした。混合栄養も含めると、母乳を与えているママは生後1ヶ月で96.5%、生後3ヶ月で89.8%でした。
このことより、完全母乳ではなくても、母乳を赤ちゃんに与えている割合は9割を超えるということがわかります。

完全母乳ではなく混合授乳の選択肢もある


確かに、母乳はママにも赤ちゃんにもたくさんのメリットがありますが、実際には完全母乳にすることで、ママが辛い思いをすることもあるのが現実です。
最近では、あえて完全母乳ではなく混合授乳を選択するママも増えてきている印象です。母乳育児のメリットだけでなく、デメリットも知った上で、自分にはどの方法が適しているのか、選択をするようにしましょう。

*助産師からの一言コメント*
完全母乳と聞くと、ミルクは一滴も与えないことだと思っている人もいるでしょう。
しかし、完全母乳の人でも、
☑ 休息のために1日1回はパートナーにミルクをあげてもらう
☑ ママの体調不良時はミルクも使用する
☑ 保育園利用を予定していて、1日1回は哺乳瓶に慣れるためミルクを与える
など色々な選択肢があります。
絶対に母乳でないといけない!という考えは、ママの負担になりやすいです。必要に応じて柔軟に自分たちに合った赤ちゃんへの栄養方法を選択してみてください。


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母乳育児にはメリットがいっぱい


母乳のメリット
よく耳にするように、母乳にはたくさんの良い点があります。少なくとも初乳は必ず赤ちゃんに与えることをおすすめしています。ここでは母乳育児の具体的なメリットをお話しします。

【メリット1】赤ちゃんに最適な栄養素や免疫である


母乳の最大のメリットであるといえるのが、母乳に含まれる栄養素や免疫が赤ちゃんに最適な形で多く含まれている点でしょう。特に初乳(出産後すぐから出る母乳のこと)には、免疫グロブリンAやラクトフェリンといった免疫物質が多く含まれています。ママのお腹の中から外に出てきたばかりの赤ちゃんはウイルスや細菌と戦う力が弱いため、この母乳の免疫物質が赤ちゃんを守るのです。
母乳には、乳糖、脂肪、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、カルシウムなど赤ちゃんの成長に欠かせない栄養素すべてが含まれている上に、ミルクよりも消化吸収しやすい形態であるため、赤ちゃんにとっての理想的な食事であると言われています。

【メリット2】赤ちゃんの脳や口の発達に良い


赤ちゃんが母乳を飲む際には、舌や顎をしっかりと使ってしごき出すような口の動きをします。この動きは顎や口の筋肉を発達させ、また口を顎から動かすことで脳への刺激にもなります。
口回りの筋肉が発達すると、赤ちゃんの歯並びにも良い影響を与えることができるので、口の発達には多くの効果が期待できます。

【メリット3】ママと赤ちゃんのスキンシップに最適


赤ちゃんはママの温かさを肌を通じて感じることができ、ママも赤ちゃんを抱っこすることでお互いに顔を見合えることから、母乳育児は双方に信頼関係が生まれやすくなります。
母乳を与えることでママからは幸せホルモンであるオキシトシンが分泌され、満たされるような気分になります。オキシトシンは、産後うつや不安感へのメンタル面でも良い効果が期待できます。

【メリット4】ママの身体の回復を早める


乳首の刺激で分泌が促進されるオキシトシンは、ママの子宮収縮にも効果があり、悪露の排泄を早めたり、産後のお腹の戻りを早めたりすることが期待できます。
また、母乳は脂肪分を多く含んでいることから、母乳育児は母乳を通してママの脂肪分を赤ちゃんに与えているようなもの。そのため、母乳育児はミルク育児よりも産後の体重が戻りやすい傾向にあります。

【メリット5】経済的でお財布に優しい


完全ミルク育児の場合、粉ミルク代は月1万円以上かかりますが、母乳はママのおっぱいから出るものなので、特に何も購入する必要はないです。ミルク育児だと粉ミルク代や哺乳瓶代、哺乳瓶の消毒代などがかかります。費用面では母乳の方が経済的だといえるでしょう。

母乳育児にはメリットの反面、デメリットも


母乳のデメリット
母乳には多くのメリットがある一方、母乳分泌が安定するまでは1時間〜3時間おきに母乳を与えるため、睡眠不足や疲労蓄積など、実はデメリットもあります。一つずつ見ていきましょう。

【デメリット1】ママの負担が大きくなる


母乳育児はママにしかできないもので、他の人に代われないことが何よりも大きなデメリットと言えるでしょう。
例えば、完全母乳で育てているママの場合、ママが体調不良のときも赤ちゃんの授乳は続けなくてはなりません。母乳を急に休ませてしまうと乳腺炎の原因になることや、赤ちゃんが母乳以外を嫌がることも多く、急な栄養方法の変更ができないからです。
また完全母乳の場合、ママの予定があったり、疲れて少し休みたい、マタニティブルーで少し赤ちゃんと離れたいと思った場合でも、現実的には離れることができません。
その他にも、母乳は消化が早い分、頻回授乳となり睡眠不足になることや、乳腺炎など乳房トラブルになること、授乳中は食事内容に気を使う必要があることなど、大変な面も多いのが実際です。
ママにしかできない神秘的でやりがいのある母乳育児ですが、このようなデメリットがあることも理解しておく必要があります。

【デメリット2】赤ちゃんがどのくらい飲めているのか把握できない


母乳は目で見て赤ちゃんがどのくらい飲めているのか確認することができません。産院であれば体重の変化で飲んだ量の確認ができますが、自宅の体重計では測定は難しいです。
完全母乳の場合、赤ちゃんの体重が増えない、量がわからず不安になる、赤ちゃんが飲めている量が少ないために頻回授乳になるなどのデメリットがあります。

【デメリット3】職場復帰がしにくい場合がある


育児休業を終えて職場復帰をする際には、「母乳を継続して職場では搾乳などで対応」する方法と「断乳(卒乳)し、赤ちゃんにはミルクを与える」方法があります。どちらを選択しても問題ありませんが、前者を選択する場合は職場に搾乳環境があるかどうかを確認しておく必要があります。
また、保育園によっては完全ミルク育児を条件にしている園もあるため、保育園を考えているなら赤ちゃんに哺乳瓶とミルクを慣れさせておく必要があります。
産後早めに職場復帰を考えている場合は、ミルクにも慣らしておくなどご自身に合った方法を考慮していくようにしましょう。どの方法が一番自分に合っているのかわからない場合は、一度助産師さんに相談してみてくださいね。

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母乳育児で起こりやすいトラブルと対策


母乳育児をしていると、乳腺炎や乳房のハリの予防など、何かしら定期的なケアが必要です。おっぱいの状況によっては、一時的に授乳を休まなければいけないこともあります。どんなトラブルが起こりうるのか、紹介します。

乳房トラブルとは


乳房トラブルは、おっぱいのトラブルのことをいい、大きく以下3つに分けられます。

①おっぱいが張って痛い
②乳腺炎になる
③白斑ができておっぱいの一部が痛い


それぞれ詳しく説明します。

①おっぱいが張って痛い

産後おっぱいを吸わせていると、約2〜5日ほどでおっぱいの張りのピークを感じるママが多いです。これは、母乳がたくさんできている証拠でもあるのですが、寝返りを打ったり、下着が擦れたりするだけでも、痛みを感じるなど辛い方もいます。
おっぱいの張りは、赤ちゃんにとって必要な母乳の量を把握できていないために身体が多めに作ることが原因なので、赤ちゃんが欲しがる度に母乳を吸わせていると、数日で楽になってきます。
ただしここで注意してほしいのが、痛みが和らぐからといって、搾乳をし過ぎてしまうこと。搾乳しすぎると、赤ちゃんが必要な量だと身体が勘違いしてしまい、いつまでも母乳を作りすぎてしまう原因になります。そうするとずっと搾乳が必要な状態になってしまうこともあります。


②乳腺炎になる

乳腺炎は、乳汁をつくる管である乳腺が炎症することで、痛み、熱感、腫れ、発赤、発熱などの症状が出ることをいいます。
乳腺炎の原因は、おっぱいの先から菌が入ることで炎症が起きたり、赤ちゃんが浅飲みなどでおっぱいを上手く飲むことができずに長時間乳汁が乳管にたまり続けたりするなどがあげられます。
乳腺炎の予防は、定期的な授乳を行うことと、乳首を清潔に保つこと、ママが疲れやストレスを溜めないことが大切になります。


③白斑ができておっぱいの一部が痛い

白斑とは、乳首の先にできる透明や白色をしたデキモノのことをいいます。白斑は、乳首の先の出口が一部詰まることでできます。白斑ができると、授乳の度に痛みを感じることや、そのまま放置していると乳腺炎の原因になることもあります。
白斑の予防は、浅飲みをさせないこと、いつも同じ姿勢で授乳しないことが大切です。特に添い乳などは白斑ができやすいため注意しましょう。


*助産師からの一言コメント*
おっぱいのトラブルと密接に関係しているのは、ママのストレスです。慣れない育児や眠れないストレスなどから、おっぱいのトラブルに繋がってしまうことも少なくありません。
疲労が取れなかったり、ふとしたときに涙が溢れてくるなどの症状があれば、それはストレスが溜まってきている証拠。
そんなときは、家族に赤ちゃんを預けたり、産後ドゥーラやベビーシッターに来てもらったりして、周りの手を借りて少し休息をとってみてください。育児はひとりでするものではありません。ひとりで溜め込まないで、周りの人に頼っていくようにしてみてくださいね。


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母乳育児でしんどいときは、プロの助けを借りて


母乳育児は、ママが100人いれば100通りのやり方があります。退院後すぐに1人で母乳育児が完璧にできる人は一人もいません。少しでも困ったことがあれば、産院や助産師、産後ドゥーラなど産後のプロに相談をしてみてくださいね。

キッズラインなら産後ドゥーラやベビーシッターをスマホで探せる


ベビーシッターのマッチングプラットフォームであるキッズラインなら、産後の育児や家事をサポートしてくれる産後ドゥーラや、0ヶ月の赤ちゃんを見られるベビーシッターを、スマホで探すことが出来ます。初回の依頼前には必ず顔合わせ(オンライン)または事前面談(対面)が必要なので、まずは一度連絡を取ってみるのがオススメです。
また、キッズラインでは家事代行サービスも依頼することが出来ます。産後の生活を支えてくれるサポーターを見つけて、無理のない子育てをスタートさせましょう。

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■フリーランス助産師 上原沙希
東京女子医科大学病院 産婦人科 MFICU に勤務後、より多くの方の力になりたいという思いを抱き、英語力習得のためヨーロッパ留学とギリシャ難民ボランティアへ。その後フリーランス助産師として独立し産婦人科クリニックにてお産介助や妊婦指導などを行う傍ら精神疾患患者や障害をお持ちの患者さんのケアも行う。現在は子持ちフリーランス助産師として産婦人科業務以外にも妊産婦向け商品開発やライター、思春期相談、マタニティヨガ指導、性教育など幅広く活動中。


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