キッズラインで活躍するサポーターの皆さんに、やりがいや働き方の工夫について伺うインタビュー企画。
今回は助産師として病院勤務を経て、現在は産前産後ケアとベビーシッターを両立しているSさんにお話を伺いました。Sさんは、都内の病院で約8年間助産師として勤務し、多くの出産サポートや新生児ケアを経験。その後、自身の出産と産後に感じたつらさをきっかけに、専門職としての知識と実体験を活かしながら、産後ケアに力を注いでいます。
ベビーシッターという仕事の魅力や、現場で大切にしていることについても語っていただきました。
命の誕生に心を動かされ、助産師を志す

ー今はどんな働き方をされていますか?
現在は、助産師が運営する都内のサロンで週3日勤務し、母乳や骨盤ケア、妊娠期の両親学級、新生児との暮らしのレクチャーなど、産前産後のママや赤ちゃんを幅広くサポートする仕事をメインにしています。サロン勤務以外の日はキッズラインでベビーシッターとして活動していますが、土日は家族との時間を大切にするためお休みです。
サロンのシフトは曜日を固定していないので、キッズラインでは定期利用はお受けしていません。また直前の依頼には対応できないこともあるため、シッティング前の顔合わせの時点で必ず親御様にそのことをご説明しています。
今年7月に東京都ベビーシッター利用事業の一時預かり認定サポーターになったことで、ご依頼が一気に増えました。自治体の助成によって費用の負担が軽くなり、初めて依頼してくださる方もいらっしゃいます。行政の取り組みが、安心して利用できる環境づくりにつながっていると感じています。
ー助産師を志したきっかけは何だったのでしょうか?
もともと子どもが好きで、保育士として働く母の姿を見て育ちました。ただ母から「保育士も良いけれど、別の道も考えてみたら」と言われたこともあり、保育士以外で子どもに関わる職業を探し始めました。
そして高校生の頃、『13歳のハローワーク』という有名な本を読んだときに初めて「助産師」という職業を知りました。医療職として母子に関わり、手に職を持ちながら長く働けることに大きな魅力を感じたんです。大学進学時には保健師を目指していましたが、実習で出産に立ち会ったとき、命の誕生に深く心を動かされました。
学生時代に観たお産のドキュメンタリーも後押しとなり、「助産師として生きたい」と決意。大学院に進学して助産師資格を取得しました。
助産師として日々は充実。でも、喜びだけではなかった
ー大学院を卒業してから、どんな道を歩まれたのですか?
都内の病院で約8年間勤務しました。分娩のサポートや新生児ケア、妊婦さんや産後のママの支援など、多岐にわたる業務を担当し、数え切れないほどの出産に立ち会いました。
ー助産師としての日々は、どんな時間でしたか?
とても充実していましたが、仕事中心の生活でオンオフの切り替えが難しく、心身に負担を抱えることもありました。夜勤や長時間労働に加え、医療の進歩に追いつくための勉強も欠かせません。職場で緊急時に鳴るアラーム音が自宅にいても耳の奥で鳴り響くように感じ、「私、少し疲れているな」と気付いたこともあります。
さらに、お産の現場は必ずしも喜びだけではなく、母子に危険が及ぶ場面や無事に出産に至らないケースもありました。命の尊さを実感する一方で、その重みに向き合う厳しさにも直面し、心の持ちように悩んだこともあります。
助産師ママがキッズラインで見つけた、新しいキャリアの形

ーベビーシッターを始めようと思ったきっかけは何だったのでしょう?
私自身の子育て経験が大きなきっかけです。
初めての育児は想像以上に孤独でした。そして、病院で助産師として見ていたのは産前産後のごく一部にすぎず、家庭に戻ってからの大変さは全くの別物だと気付いたんです。この経験から「家庭での産後ケアの重要性」を強く意識するようになりました。
また、病院勤務はシフト制で、一人の方に継続して関わるのが難しく、記録を追って終わることも少なくありませんでした。一方でベビーシッターは、同じご家庭に通うことでお子様の成長をじっくり見守ることもできます。そこに大きな魅力を感じました。
ー産後大変な思いをされたとのことですが、具体的なエピソードをお聞かせいただけますか?
私の子は乳児の頃、全然寝てくれなくて……。抱っこしないと寝られないタイプだったんです。出産前は「助産師の経験もあるし、寝かしつけもうまくできるだろう」なんて思っていたんですが、現実は全く違いました。
細切れ睡眠で睡眠不足になり、心が荒んでいくのを感じましたね。「私、産後うつかもしれない」と思うこともありました。
ーご自身の経験が影響しているのですね。その後、With Midwifeを通じてキッズラインに登録されたと聞きました。
はい。出産後に復職しましたが、家庭との両立が想像以上に厳しく、オンとオフのバランスがうまく取れなくなってしまいました。そこで退職を考え始め、働き方を模索していたときに、知人を通じてWith Midwifeの存在を知ったんです。
そして病院勤務と並行して、With Midwifeが提供する助産師向けリスキリングプログラム「License says」(ライセンスセズ)を受講しました。そのご縁でキッズラインを紹介され、登録することになったんです。

License says
助産師のためのリスキリングライセンス。「働きながら、育てながら、生きる方々」のために貢献したいと願う助産師のリスキリングを応援し、最新知識の学びや全国・世界の助産師との交流の場の運営、キャリア支援等を行っている。
※株式会社With Midwife
助産師がいのちにまつわる社会課題を解決する会社として、伴走型従業員支援プログラム「THE CARE」や助産師向けリスキリングプログラム「License says」などを展開。

助産師の自分を前に出さず、産後のママに寄り添うサポートを心がける

ー初めてのサポートのことを覚えていますか?
顔合わせをした翌月に、初めてサポートに伺いました。ママが外出している間、赤ちゃんと2人きりで過ごしました。
その際は、ママの授乳や育児スタイルを尊重しつつ、何よりも安全を第一に考えるよう心がけました。さらに、ママが安心できるよう「どんな遊びをしたか」「どのくらい眠ったか」「ミルクをどのくらい飲んだか」など、できる限り細かく記録して報告。自分が預ける立場なら知りたいことを意識して伝えるよう努めました。
ーベビーシッターとして働く中で、心がけていることはありますか?
「助産師であることを前面に出さない」ことを心がけています。病院勤務時代は助産師として指導をする立場でしたが、ベビーシッターの仕事では親御様のご希望や育児方針を最優先にし、普段のご自身の育児スタイルを尊重するようにしています。私自身が助産師であることはお伝えしますが、あくまで親御様のサポート役に徹しています。
気になる点があれば「これは○○かもしれません」などと軽く提案する程度にとどめ、最終的な判断は親御様に委ねています。
また、顔合わせからシッティングまで時間が空く場合は、当日に「最近どうですか?」「今日はどんな様子ですか?」と必ず確認しています。
ー実際のサポートで、印象に残っているエピソードはありますか?
赤ちゃんのお世話だけでなく、親御様の心のケアにつながる場面も多くあります。「大人と話すだけで気持ちが軽くなった」と感謝されたこともありました。私自身、産後に孤独を感じた経験があるので、家族以外で子どもの成長を一緒に喜んでくれる存在がどれほど心強いかを実感しています。

助産師の活躍できる場は、病院だけではない

ー今のご自身の働き方について、どのように考えていますか?
現在、助産師として病院勤務していた頃には叶わなかった柔軟な働き方が実現し、家庭と仕事のバランスがとれていることに、大きな満足を感じています。
私の子どもはもうすぐ4歳になりますが、「子どもと過ごせる時間って、本当に限られているな」とつくづく思い、手が離れるまでは家族との時間を優先したいと考えています。
ー最後に、助産師としての働き方に迷う方へ、メッセージをお願いします。
「助産師が活躍できる場所は病院だけではない」ということをお伝えしたいです。助産師として培った知識や技術を活かせる場は病院以外にもいろいろあり、そのひとつにベビーシッターがあります。キッズラインならベビーシッターとして自由度の高い働き方ができますし、時給を自分で設定できるのも魅力だと思います。
新しい一歩を踏み出すのは、誰にとっても勇気がいることだと思いますが、ぜひ視野を広げてみてほしいですね。
取材を通じて最も印象的だったのは、Sさんの「親御様に指導するのではなく、寄り添う」という姿勢でした。
助産師として豊富な知識と臨床経験を持ちながら、それを前面に出さず、親御様をそっとサポートする。その背景には「助産師の私でも産後は想像以上につらかった」というご自身の経験がありました。
初めての育児は孤独で、誰かに話を聞いてほしかった。そう強く思ったからこそ、「大人と話したい」「一緒に成長を喜んでほしい」「ちょうどいい距離感で見守ってほしい」という親御様の切実な思いに応えられるのだと感じました。
病院での「指導する立場」から、ベビーシッターとしての「伴走する存在」へ。そのキャリアチェンジは、助産師という資格の新しい活かし方を示すだけでなく、多くの医療職の方にとって「専門性と寄り添いの両立」を考えるきっかけになるのではないでしょうか。

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