夫婦共に超多忙、そんなときに妊娠が発覚してバタバタしながらの育児が始まった……!そんな経験がある方も多いのではないでしょうか?
「大東京トイボックス」「アイとアイザワ」などを手がけた夫婦漫画家ユニットうめの小沢高広さんも、そんな育児をした方の一人。
夫婦共に仕事がある中、育児サバイバルの様子を愉快に描いた最新作『イクメンと呼ばないで』が好評発売中です。
今回はそんな小沢さんに、育児ハック術や子育てをしてからの変化を伺います。
数々の育児ライフハックがすごい!交渉上手のコツは?
ー「イクメンと呼ばないで」を読んでいて印象的だったのが……小沢さん、交渉上手すぎませんか? 特にこの保活の場面とか。
小沢:ありがとうございます(笑)日常をハックするのが好きな体質なんでしょうね。
ー子育てって交渉が必要なシーンも多いので、ぜひ交渉上手になれるコツを教えてください!
小沢:まずルールを把握することですね。
僕が保育園に最初申し込みに行った時、「落ちるからやめた方がいいですよ」って言われたんですよ。
ーえ!
小沢:あれは僕は待機児童を減らす一つの作戦だと思うんですけど(笑)
でもそこで引き下がらず、「じゃあどうやって決まるんですか?」としつこく聞いていく。そうすると、「こんなルールで点数がつくのか」「この場合はこんな手当がつくのか」とだんだん理解できるようになります。
ー思考停止しないで、ちゃんと自分で明らかにしていく姿勢が大切なんですね。
小沢:そうですね。僕は事務手続きが苦手なので、取材だと思っていろいろ聞くようにしていますね。
あとは、対決しないことも大事だと思います。
ー対決しないこと?
小沢:行政や保育園の人って頭硬くて融通きかないように見えるんですけど、あの人たちって「上司に話せる理屈」さえ作ってあげれば動いてくれるんですよ。
ーそんなシーンありましたね!
小沢:そうそう。相手に何かをしてもらいたかったら、基本対決はしないで、ちょっとずつこっち側に来てもらうようにするといいと思います。「あそこにゴールがあるんで、一緒にきませんか?」ってお誘いをするんです。
「上司の人にはこういう風に言ったらどうですか?ちなみに、あなたには負担をさせません!」って(笑)そう伝えると、なんとかなる場面も多いですね。
仕事は育児に比べたら楽。子どもができてから、アーティスト気取りだったと気づいた
ー育児をしてから、ご自身の中で変わったことってありますか?
小沢:育児に対する見方が180度変わりましたね。
僕、子どもができる前は、公園で子どもたちと遊んでいるお母さんを見て「ラクでいいな」と思っていたんです。「公園にいるときまでスマホいじらなくてもいいのに」とまで思っていました。
でも今は「スマホでもいじってないとやってらんないよね」と思います。子育てをしてみて、砂場で山を作ってる子どもを見続けなくちゃいけないことがいかに苦痛かを知ったんです。
「見てみて!これ作ったの」「うん、すごいね(さっきも見たよ)」というやりとりを子供が飽きるまで延々とやらなければいけないし、それを終わった後に抱っこして連れて帰らなきゃいけない。靴下の中に入った砂を出して、起こさないようにそれを拭いて、布団にのせるかソファにのせるかもめっちゃ迷うし……
やーー、仕事なんて育児に比べれば全然ラクだなって思いました。
ー育児はコントロールできない要素が多いですからね。お子さんができてから、仕事への変化は何かありましたか?
小沢:子どもがいる前はアーティスト気取りだったんだな、と思いました。
ーアーティスト気取り?
小沢:子どもができてからは、仕事にかける時間がどうしても減ってしまいます。でも、仕事の量やクオリティが下がったかというとそんなこともなくて。
マンガの原稿にペンを入れるとき、昔だと「1ページ目からじゃないと気分がのらない」と言っていたり、「なんかネームできないねー」と3日ぐらいダラダラしていたりしたのですが、それってアーティスト気取りだったんだなと。
もちろん当時は一生懸命やっていたつもりなんですけど、「これしか時間がない」と限られていれば、意外とそれなりのアウトプットを出せるものだと気づきました。
ー小沢さんの場合は夫婦で漫画家なのでお二人ともフリーランスかと思いますが、フリーランスで子育てするにあたって大変だったことや良かったと感じることはありますか?
小沢:会社員として子育てをしたことがないので、比較はできないですが……
フリーランスだと、起きている時間はずっと働いているようなものなんですよね。なので、土日休みで17時までしか開いていない保育園や役所のような場所に関わるのが久しぶりで。「ええ、そうなの !?」と驚くことも多かったです。
例えば、保育園の手続きの際に出す勤務証明書。「定休日っていつですか?」「勤務時間は何時から何時までなんですか?」と聞かれるんですけど、僕たちの場合は起きている間ずっとなんですよね。
だから「起きてる間ずっと」と書いたら、「え?」って顔をされたり。就業証明書がなかったのでその代わりに自分たちの単行本を持っていったら「困ります!(ワイロは)受け取れません!」と言われたり(笑)
ーそのシーンも面白かったです!
小沢:夫婦ともにフリーランスなので休みが調整しやすく、そういう面では子育てとフリーランスの相性の良さは感じていますが、違う世界に迷いこんでしまったようでわけがわからなかった時期はありましたね(笑)
「イクメン」扱いされるモヤモヤ、今は?
ー漫画の中には、イクメンと呼ばれてモヤモヤするシーンもありましたね。
小沢:はい。当時はイクメンという存在が珍しかった頃だったので、「今日はパパも来ていますね」「イクメンですね」と言われて、違和感を覚えていました。
今は「イクメンと呼ばないでくれ」という意見も一般化されてきましたし、ここ数年でかなり状況は変わっているとは思うんですけど。
ただ今でも小学校に行くと、まだまだ父親は育児に参加しにくい状況にあるなと感じることはありますね。
ーどういうところで感じるんですか?
小沢:こないだ小学校で餅つき大会があって。餅つき係からメールが来たのですが、「お父さんは衛生管理がなってない方が多いので、お母さんはお父さんをチェックしてあげてください」と書いてあったんですよ(笑)
「えっ?お父さんを何もできない扱いしすぎじゃない?」と思いました。
あとは「お母さんに粘土で何か作ってあげよう」という授業があったときに、ふと図工の先生が「お父さんは外で仕事、お母さんは家で料理をするものでしょ?」と言ってしまったらしいんですね。それを聞いた娘が授業に出たくないと抗議をしたことがありました。
ー小沢さんのお家では、たしか小沢さんがご飯を作っていますよね。
小沢:そうなんです。うちの家では僕が料理担当なので、娘からすると逆に「なんで他の家庭はお母さんばかりが料理するの?」という感じなんですよね。
娘は「お母さんが料理をするのが普通」という考えを図工の先生に押し付けられたと感じたみたいで。
その時は担任の先生が「それなら図工出たくのも当たり前だよね。出なくていいよ」とうまく対応してくださって解決したんですけど、学校自体が「お父さんが育児すること」を前提にしていないのはときどき感じますね。
漫画の恩は、漫画で返したい
ー今回なぜ育児を題材にした漫画を描こうと思ったんでしょうか?
小沢:自分たちが育児をしているときに、育児漫画に救われた経験があったからです。
子供が生まれる前に、いわゆる育児書と呼ばれるものを読んでいたんですけど、どうも教科書的な問題と解決の事例ばかり書いてあって頭に入ってこなかったんです。
で、一番しっくりきたのが、やっぱりマンガ家が書いた育児マンガだったんです。失敗談も成功したこともトラブルも全部書いてある、そんな漫画を見て自分たちは救われました。
だから自分たちも育児漫画を描くことで、誰かの役に立つんだったらうれしいな、と思って描くことを決めました。
ーネタはもともとストックされていたんですか?
小沢:はい。実は産まれてから結構マメに記録とっていて。保育園に提出する保育ノートに、娘の様子を詳細に記していたので、いつか漫画を描くときのためのネタはありました。
ーこの漫画、大きな事件とかは起こらないですよね。
小沢:そうですね。いろいろな育児マンガがありますが、この漫画は極端な大事件や感動エピソードなどがない、本当に普通の日常を描いた育児マンガです。
ー「ニブンノイクジ 」とあるように、うめさんご夫婦が家事育児を半分ずつ分担しながら育児をハックしていく漫画、という印象を受けました。
小沢:慣らし保育やオムツ事情、寝かしつけのスケジュールなど、実践的な話が多いので、細かく日常をハックしていく感じが好きな人にはおすすめですし、誰にでも起きがちなことを漫画にしているので、共感できる部分は多いと思います。
「パパに読ませると育児に参加してほしいときに説得しやすい」という意見はお母さんたちから多くいただくので、そういう使い方にもおすすめです。
ーありがとうございました!
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