株式会社感性リサーチの代表取締役社長、人工知能研究者、随筆家としてご活躍の黒川伊保子さん。ヒトと人工知能の対話研究の立場からコミュニケーション・サイエンスの新領域を拓いた、感性研究の第一人者でいらっしゃいます。子育て期に執筆された脳科学本「恋愛脳」や「夫婦脳」が話題を呼び、2018年には「妻のトリセツ」がベストセラーに。トリセツシリーズは、累計発行部数がミリオンセラーに迫る勢いまでに!そんな黒川さんに、前編のインタビューでは、ご自身の家事・育児に対する取り組みや、男性脳と女性脳の視点が垣間見えるユニークなアイデアについてお話を伺いました。
お願いして、本当に助かった!
ーー家事・育児を家族以外の人にお願いされたご経験はありますか?
はい、あります。息子の学童保育が終わってから何年間かは、息子の帰宅時間の少し前に来てもらって、リビングの掃除、朝食の片付け、夕飯用のお米の準備などの家事代行をしてもらっていました。息子が夕方、独りぼっちなのも気になったので。当時は、キッズラインのようなネットサービスがなかったので、知り合いの紹介を辿るかたちで探していました。
ーー家事・育児を家族以外の人へお願いすることに抵抗はなかったですか?
私はまったく抵抗がなくて、本当に助かっていましたよ!7時過ぎに駆け込むようにして帰宅しても、シンクが片付いていて、ご飯さえ炊けていれば、あとは肉にしろ魚にしろ15分でどうにかなる。「シンクを片づけて、お米を仕掛けるだけ」の家事代行でいいから、毎日来てほしかった。
ーー現在はどのようにされていますか?
夫が定年退職し、息子夫婦と同居しているので、今のところ、家事の手は足りてます。ただ、息子とおよめちゃんとは、阿吽の呼吸で家事を分担できるのですが、なぜか夫とはこれがうまくいかない。そこで、「リーダー制」を取り入れました。
家事分担は「リーダー制」にして丸ごと任せる
ーー「リーダー制」とはどんなルールですか?
夫を、洗濯リーダーと呼ぶことにしたんです。
リーダーだから、マネジメントが仕事。単なる係とは違います。洗濯する、干す、畳むことはもちろんのこと、洗剤のチョイスと在庫管理、自分が干しやすいハンガーなどの道具も吟味して調達します。「今日は雨だから大物は明日」みたいな洗濯のタイミングも彼が決めます。洗濯丸ごと、彼が責任者なんです。
ーーなるほど。
我が家では、「猫缶&猫砂リーダー」「1階トイレリーダー」「2階トイレリーダー」「植木リーダー」「揚げ物リーダー」「麺茹でリーダー」など責任分担を細かくして、たくさんのマネジメントを分け合っています。
ーー確かに、細かいですね。
「洗濯リーダー、洗濯籠がいっぱいです。洗濯機回していい?」みたいに、洗濯に関することは、できるだけ報告・連絡・相談をします。すると、洗濯リーダーが、「あ~、その後の段取りもあるから、こっちでやるよ」なんて言ったりして。
「あなた、洗濯係でしょ。ちゃんとやってよ」「今、忙しいんだよ」みたいなやりとりより、ずっとポジティブでしょ?
押しつけ合うのではなく、好きなタスクを選べばいい
ーー「リーダー」と言われた方が気分が上がりますね!
でしょ?!
私は、家事にしろ仕事にしろ「やりたくないことを押し付け合う」という発想が好きじゃないんです。家族や部下には、好きなことをしてもらえばいい。全員やりたくなかったら、アウトソーシングすればいい。ただ、それだけのこと。
やりたくないことを押し付け合えば、ことばが尖って、家庭が暗くなります。
ーー確かに。
だから、好きなことをチョイスしあって、シェアしようと。そういった考えから今のような「リーダー制」になりました。
ーーすぐにマネできて楽しそうです!
子供に「お手伝いをして」というより「リーダーお願いします!」と任された方がやる気になると思います。
夫は退職するまでは一切家事や料理ができなかったんですが、今では「洗濯リーダー」のほかに「麺茹でリーダー」も担っています。特に、蕎麦茹では極めていて、乾麺がお蕎麦屋さんの味に。休日のお昼に、ちょっと面倒だなと思ったら「今日は蕎麦が食べたいな」と言えば何もしなくていいので、ほんと助かります。茹で野菜や肉をトッピングしたり、とろろそばにしたり、ポン酢に麻辣ダレとか、かなりバリエーションを増やしているので、彼の食事の心配をせずに出かけられるのも楽ですね。
ーーご主人も楽しみながら担当されてるんですね。
そうなんです。そば打ち道具も買ったりして(微笑)
一つのことを極めるのは男性脳の得意技なので、夫や息子を家事にジョインしようと思ったら、時々に思い付きであれこれ頼むのではなく、ピンポイントでタスクを切り出すのがおススメです。包丁砥ぎとか、お風呂のカビとりなんかも、男子は極めますよ~!
相手を認めて見守ることが大事
ーー「任せる」ということができず、自分で抱えてしまう方もいると思います。
そうですよね、だから「リーダー」なんです。
ーーなるほど。
もし、リーダー制でない場合、ただ「蕎麦を茹でてね」とお願いしたら、蕎麦を買ってくるのも鍋を用意するのも片づけるのも、こちらの役目になってしまいますよね。
それだと、あんまり意味がないじゃないですか。
もちろん、リーダーにお願いされて、蕎麦を買ってくることはありますし、鍋を洗ってあげることはありますが、「誰がそのタスクを回すのか」が重要です。
ーータスクを丸ごと任せるわけですね。
家事の何がたいへんって、備品の管理や、タスク遂行のタイミングを計ったりすること。
風呂掃除なんてあっという間だけど、そのために道具を揃え、洗剤を切らさないようにして、「家に帰ったら、まず風呂掃除」なんて考えながら行動することに、私たちはかなり脳を使っています。このストレスごと、家事を切り離さないと、家族に任せた割には楽にならないってことに。
全てを抱えずに、手放す勇気も大切
すべてを任せることができずに一部分だけお願いしていると、「帰ったらお風呂洗わなきゃ」の心配をするのが自分になっちゃう。そうなると、なかなか洗わない夫に「お風呂洗ってよ」と言わなきゃならなくなって、億劫そうな返事にイラっとする。それじゃ、さっさと自分でしたほうがマシ。ちっとも気持ちが楽にならない。
夫が風呂掃除リーダーなら、「パパ、もう、お風呂入れる?」と無邪気に聞けばいいだけなのに。
ーーそうですよね。
だから、自分で抱えてしまう方は、「リーダー制」のように思い切って任せてみることをオススメします。
ーーつまり「手放す」ということですね。
そうです。家事・育児のどちらにしても全てをやろうと抱え込まず、ぜひ「手放す」勇気を持って欲しい。
ーー「手放す勇気」て確かに必要かもしれませんね。
それから、手放したら、ちゃんと任せることも大切だと思います。なぜなら、人によって正解の定義が違うし、必ずしも自分と違う答えが間違っているわけではないから。それを理解することが、任せることへのハードルを下げてくれるんじゃないかな。
後編では黒川さんの研究分野でもある「男性脳」と「女性脳」について、子育てにも活きる思いやりに満ちた家族を作る「片付け方法」のお話を伺います。
■「息子のトリセツ」/発行:株式会社扶桑社
「母親が“男性脳学”を学ばずに、男の子を理解するのはなかなか難しい。もちろん、そんなこと知らなくたって、愛と相性の良さで、たぶん乗り切れる。けど、知っていれば、子育ての楽しさは、きっと倍増する。」著書本文より
■「娘のトリセツ」/発行:株式会社小学館
「父の愛は、娘の一生を守る。けれど、娘を守るためには、その表現の仕方に少しコツがいるのである」著書本文より