「保育士の仕事は好きだけど、いつまで働けるのだろう」と漠然とした不安を抱える人は少なくありません。キャリアの選択肢を知れば、今後の働き方をイメージしやすくなるはずです。保育士の働き方について、18年のキャリアを持つ現役の保育士が紹介します。
保育士はいつまで働ける?公立と私立での定年の違い

保育園には公立と私立があり、定年退職の年齢が異なります。公立と私立では何歳まで働けるのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
公立保育園の場合
公立保育園の定年年齢は、2022年度までは60歳でした。しかし、「地方公務員法の一部改正」により、定年年齢は2023年度から2年ごとに1歳ずつ引き上げられ、2031年度には65歳となる見込みです。保育士もその対象となっています。2024年現在における公立保育士の定年は61歳ですが、定年後も希望すれば、65歳まで暫定再任用職員として働くことが可能です。
出典:地方公務員法の一部を改正する法律について(令和3年6月25日)/総務省公務員部
私立保育園の場合
私立保育園の定年年齢には法律上の定めはありません。そのため、各園の就業規則で独自に設定されており、大体60〜65歳が定年のケースが多くなっています。最近では、定年後に再雇用制度を設けている園も増えてきているようです。これは高年齢者雇用安定法に基づく制度で、事業主は希望する職員に対し、65歳までの雇用継続を義務付けられているからです。さらに、2021年4月からは、70歳までの就業機会確保が事業主の努力義務となっています。
出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正~70歳までの就業機会確保~」
保育士の職場環境は、続けることへのハードルがある

65歳や70歳が定年であれば、20代前半で働き始めた場合、約40年にわたって保育士としてのキャリアを歩む可能性があります。しかし、保育士は体力的・精神的に負担の大きい仕事で、定年まで勤め続けることが難しい職種としても知られています。実際、多くの保育士が「いつまで保育士として働けるのか」といった不安を抱えているのが実状です。
ここからは、保育士として長く働く上で直面する課題や、現場の実態について詳しく見ていきましょう。
【現状1】 保育士として長く働きづらい
厚生労働省が2020年に公表した「保育士の現状と主な取組」によると、保育士の離職率は9.3%(2017年)で、年間に3万7716名もの保育士が退職しています。離職率の内訳は、公立保育園が6.3%、私立保育園は10.7%であり、公立保育園の方が低い傾向があります。背景には待遇や労働環境の差があると考えられます。
私立保育園では、年間10人に1人の保育士が退職している計算です。退職するに至らなくても、「いつまで保育士を続けようか」と働き続けるかを迷っている保育士は多いと予想されます。厚生労働省が発表した別の調査でも、保育士の平均勤続年数は8.5年で、全職種平均の約11年を下回っています。
出典:保育士の現状と主な取組(令和2年9月17日)/厚生労働省
出典:厚生労働省「保育士の登録者数と従事者数の推移」
【現状2】 潜在保育士が増加している
2020年の段階で、保育士登録者数は約167万3000人です。そのうち、保育士として働いている人数は約64万5000人であり、保育士資格を有しながら保育士として働いていない「潜在保育士」は102万8000人に上ります。潜在保育士の数は2014年には約78万人でしたが、年々増加し、2020年には100万人を超えました。一度は保育の道を歩んだにも関わらず、保育から離れて生活している人が100万人以上いることから、保育士として働き続けることの難しさが読み取れます。
出典:厚生労働省「保育士の登録者数と従事者数の推移」
【現状3】 人間関係を理由として退職する保育士が多い
厚生労働省が2020年に発表した「保育士の現状と主な取組」によると、保育士の退職理由の上位は以下のとおりです。退職理由のトップは「職場の人間関係」(33.5%)で、次いで「給料が安い」(29.2%)、「仕事量が多い」(27.7%)が挙がりました。
出典:保育士の現状と主な取組(令和2年9月17日)/厚生労働省
退職理由の1位は人間関係です。保育士同士の価値観の違いのほか、保護者対応にストレスを感じ、退職に至るようです。コミュニケーションの難しさが、退職を選ぶ一因となっています。
また、「仕事量は多いのに、給料は少ない」という不満もあがっており、退職の要因となっています。保育現場で労働環境の改善は難しいと判断し、退職を選択する保育士は少なくありません。
職場環境以外に保育士が感じている課題
株式会社日本総合研究所が2022年に公表した「保育の質に関するアンケート結果報告書」によると、95.2%の保育士が、子どもへの接し方に課題を感じています。特に「子ども一人ひとりと丁寧に関わること」については、現場で子どもに関わる保育士(副主任・リーダー・役職なし)の50%以上が難しさを感じていることがわかりました。背景には慢性的な人手不足や保育士の配置基準の問題があります。「子どものために、丁寧に関わりたい」と思っても、現在の環境では実現できない現実に直面しています。
出典:保育の質に関するアンケート結果報告書(令和4年8月)/株式会社日本総合研究所
保育士が「働き続けられるか」不安を感じるポイント

保育士は、子どもの笑顔や成長が見られる、やりがいのある仕事です。しかし、体力面や将来への不安などで、「ずっとこの仕事をしていても良いのだろうか」という気持ちがよぎる瞬間を多くの保育士は経験していると思います。
ここからは、保育士として働き続けられるか、不安に感じるポイントについて見ていきましょう。
保育士の体力の低下
保育士は、赤ちゃんを抱っこしたり、子どもと一緒に運動をしたりと、体力を必要とする仕事です。天候に関係なく外へ出ることが多く、立ち座りの動作を繰り返すこともあり、膝や腰に負担がかかります。また、大人数の子どもの行動を把握するには集中力が求められ、子どもの危険な行為を止めるには瞬発力も必要です。若い頃にはこれらをこなせても、年齢と共に体の痛みを感じたり、以前ほど動けなくなったと感じたりする人が増えてきます。
このように、体力的な負担から「これ以上、保育士としては働けないかもしれない」と不安を抱く保育士は少なくありません。
待遇への不満
厚生労働省の調査によると、全職種の平均年収は500万7000円ですが、対して保育士の年収は363万5000円です。月収に換算すると、全職種の平均が41万7000円で、保育士は30万3000円と、10万円以上の差があることが分かります。税金や社会保険料が控除されると、手取り額はさらに減少します。家計にゆとりが少なく、妊娠・出産、子どもを育てることに不安を感じる保育士も少なくありません。
保育士は、子どもの命を守り、発達の土台を築く重要な役割を担っています。身体的・精神的な負担が大きいにもかかわらず、「報酬が見合っていない」と感じる方が多いのが現状です。
出典:保育士の現状と主な取り組み(令和2年9月17日)/厚生労働省
保育士が自分の適正を疑ってしまう
保育をしていると「自分は、保育士に向いていないのかも」と悩む方は少なくありません。保育士は人間性が試される仕事です。自分が親にどう育てられたかや幼少期の体験が、子どもへの接し方に影響を与えることもあります。「子どもに優しく接したいと思っているのに、怒ってしまう」「子どもの保育はいいけど、保護者対応が苦手」といった悩みから、「自分は保育士に向いていない」と感じる方も多いようです。
しかし、「できない」ことと「向いていない」ことは別の話です。経験を通してできるようになることもたくさんあるので、必要以上に自分を責めすぎてはいけません。
一方で、「保育士に向いていない」と思い込み、仕事を続けられなくなるケースもあります。もし現状に悩んだら、周囲に相談したり、自分の得意分野を見つけたりすることが、前向きに仕事を続けるための第一歩になるかもしれません。
保育士には、どのようなキャリアパスがあるのか

保育士には、どのようなキャリアの選択肢があるのでしょうか。たとえば、主任や園長を目指す、ライフステージに応じてパート勤務に切り替える、さらには保育士資格を活かして別の仕事に挑戦するといった道があります。メリットやデメリットと併せて見ていきましょう。
【その1】定年まで正社員として働く
定年まで正社員として働き続けるというキャリアパスを思い描く人は少なくないでしょう。この場合、主任や園長へとキャリアアップしていけば、給与が上がっていくことも期待できます。しかし、保育士全員が主任や園長になれるわけではありません。特に、離職率が低く、雇用が安定している公立保育園では、主任保育士になるまでに25年近い勤務経験が必要になることがあります。
著者の周りには「今、働いている職場では、キャリアアップすることができない」と見切りをつけ、別の園に転職して数年で主任や園長になった人もいます。キャリアアップを狙うなら、どの保育園が自分のキャリアプランに合うか見極めるのも大切です。
【その2】ライフステージに合わせて働き方を変える
妊娠・出産によって時間の使い方や働き方を見直すようになります。ライフステージに合わせて、正社員からパートへと働き方を変えるのも一つの手です。保育士である著者自身も、子育て中に正社員からパートへ切り替え、勤務時間もフルタイムから6時間に減らしたことがあります。そのおかげで、朝夕の時間を子どものペースに合わせて過ごすことができ、保育園の送迎も時間にゆとりをもって行えました。
子どもが小学生になり、留守番ができるようになってから正社員へ戻り、フルタイムで働き始めました。たしかに、パート勤務では収入は減りますが、子どもとの時間も大切にしながら働き続けることができました。
【その3】別の職種へ転職する
同じく子どもと関わる仕事でも、保育士とは別の働き方をするのもよいでしょう。たとえば、児童館や子育て支援員としての働き方です。もしかしたら「保育士より向いている」と思えるほどの仕事に出会えるかもしれません。一方で、新しい仕事に戸惑うことがあるかもしれません。職場との出会いには「運」や「タイミング」も影響します。保育士以外の職種へ転職することで、一から学び直さなければならないこともありますが、相性の良い職場と出会えれば、新たなスキルを身につけ、視野が広がり、その後のキャリアをより楽しいものにするきっかけになるかもしれません。
保育士が保育園以外の場所で働く道もある

「保育園での仕事に限界を感じた」「新しい働き方を試してみたい」と思った時には、別の場所で働くことを考えるタイミングかもしれません。保育士資格を活かせる職場は、保育園だけではないからです。保育士資格を活かしながら働ける場を5つご紹介します。
●児童館
児童館は、18歳未満の子どもが自由に利用できる児童福祉施設です。午前中は乳幼児期の子どもと保護者が遊びに来るため、遊びの環境を整えたり、親子向けのイベントを企画したりします。午後は放課後の小学生を迎え入れ、保護者が迎えに来るまでの時間を安全に過ごせるようサポートします。中・高校生も対象ですが、利用は限られているかもしれません。児童館では、小学生などのより大きな子どもを対象に働くことができます。保育園とは異なり、遊びや学びを通して成長を長期間見守ることができる点が大きな魅力です。保護者との関わりもあり、地域の子育て支援に貢献する仕事としてやりがいを感じられるでしょう。
●小規模保育園
小規模保育園は、0〜2歳児を預かる保育施設です。定員は6〜19名と少人数で、家庭的な雰囲気の中で保育を行うことができます。保育士の配置基準は認可保育園と同じで、保育士1名につき0歳児は子ども3名まで、1・2歳児は子ども6名までです。
小規模保育園では、大人数クラスに比べて、子どもたちと密に関われる時間が多いのが魅力です。「大人数になる3歳以上児クラスでの保育に疲れてしまった」「3歳未満児の保育に専念したい」と感じる方には、小規模保育園がぴったりの選択肢かもしれません。
家庭的な雰囲気で働ける一方で、少人数ゆえに保育士同士の連携や業務の分担が重要になります。こうした点を踏まえた上で、自分に合う働き方を検討してみてください。
●病児保育室
病児保育室は、病気や回復中の子どもを一時的に預かる施設です。保護者が仕事などで看病ができない場合に利用され、多くの自治体では生後6ヶ月から小学校6年生までの子どもを対象としています。保育士1名が担当できる子どもの数は一般的に3名までと少人数のため、一人ひとりに丁寧な保育が可能です。病児保育室での主な業務には、子どもの健康状態を見守るために熱を測ったり、水分補給や食事の介助を行ったりすることが含まれます。また、安静に過ごせるよう子どもに寄り添いながら、看護師と連携して仕事を進めます。
このような環境は、子どもの病気や医療に関心がある方にとって魅力的かもしれません。少人数でじっくりと子どもに向き合いたい方には、病児保育室での勤務がぴったりの選択肢と言えるでしょう。
●子育て支援センター
子育て支援センターは、子育て中の保護者を支援するための施設です。未就学児が親子で遊びに来られるよう、遊びの環境を整えたり、親子体操や育児講座などのイベントを企画したりします。また、子育てに関する相談に応じることもあり、保育士としての経験が役立つ場面もあります。「保護者のサポートを通じて、子育てに寄り添いたい」と思う方には、子育て支援センターでの仕事は魅力的に映るかもしれません。保育園に併設されている場合もあり、配置を希望する際は、事前に確認しておくとスムーズです。
●訪問保育士(ベビーシッター)
訪問保育士(ベビーシッター)は、主に依頼者の家庭で保育を行う仕事です。基本的には依頼者の子どもだけを担当するため、1人、または兄弟姉妹2〜3人を保育することがほとんどです。子ども一人ひとりにじっくり関わることができるため、「集団保育では難しかった丁寧な対応」を実現できる仕事です。ベビーシッターとして働くには、ベビーシッター会社に登録する方法が一般的です。ベビーシッター会社には主に業務委託型と個人事業主型があります。業務委託型では会社が依頼者とのマッチングを行うため、初めての方でも始めやすいのが特徴です。一方、個人事業主型は、自身で認可外保育施設設置届を提出し、フリーランスとして仕事を受ける形態です。フリーランスであれば、自分で時給を設定することができるため、希望の時給で仕事を受けることができます。

ベビーシッターは専業も副業もできる仕事

保育士として毎日園で働いていると、早番や遅番などのシフト調整や同僚や上司との人間関係など、心労が溜まることもあるかもしれません。その点、個別保育を行うベビーシッターは、園と比較すると人間関係のストレス負荷が少ない仕事です。
ベビーシッターは副業としても、専業としても働くことができるのもポイントです。ただし、公立の保育園で働く保育士の副業は原則として禁止されているため、副業をする場合には事前に就業規則を確認することをお勧めします。
収入面のメリットがある
ベビーシッターの魅力は、勤務時間や日数を自分で自由に決められる点です。子どもが学校に行っている時間帯だけ働いたり、家族が休みの日に依頼を受けたりと、柔軟な働き方が可能です。保育園勤務のようにシフトに縛られることがなく、オンオフのメリハリをつけやすいのが特徴です。また、個人事業主型の場合は時給を自分で設定できるため、スキルや経験に応じた収入を得ることが可能です。東京都内の平均時給は2422円と高水準で、全国平均でも2159円と高時給が望めます。
さらに、東京都の「ベビーシッター利用支援事業・一時預かり事業」(1時間あたり最大2500円の補助)やこども家庭庁の「企業型ベビーシッター割引券」(1回あたり最大4400円の割引)などの助成制度があるので、その認定を受けることができれば依頼者の経済的負担が軽減されるため、安定して仕事を受けることもできるでしょう。
個別保育にじっくりと取り組める
ベビーシッターのもう一つの大きな魅力は、個別保育にじっくり取り組めることです。保育園勤務では集団保育が中心で、一人ひとりの子どもに十分に寄り添うのが難しい場合もありますが、ベビーシッターならその課題を解消できます。子どもと密に関わりながら、成長を支える仕事を求める方にとって理想的な選択肢と言えるでしょう。
ライフステージに合わせて保育士のキャリアを考えよう

保育士として保育園でいつまで働くかは、多くの保育士が悩んだ経験を持っているのではないでしょうか?今も現役で働いている方も、既に保育園から離れて別の仕事をしている方も、もう一度ご自身の持つ国家資格を自分らしく活かすことを考えてみるのも一案です。
その上で、ライフステージに合わせて保育士資格を活かすのであれば、ベビーシッターとして活動してみるのもおすすめです。
ベビーシッターはスケジュールや時給を自分で設定できるため、家庭と仕事のバランスを取りながら収入アップを目指しやすいのが魅力です。特に、キッズラインであれば、時給を自分で設定できるため、自身のスキルや経験をしっかり反映させながら働けます。
保育園勤務では難しかった柔軟な働き方ができ、子育てや介護といったライフステージの変化にも対応しやすいでしょう。また、子育てや家族の状況が落ち着いて、また長時間働ける環境が整ったら保育園に戻るという選択肢を取ることもできます。定年後にはベビーシッターだけでなく、訪問型保育支援や子育て支援活動といった選択肢も広がります。保育士資格を活かして、自分に合った新しい働き方をぜひ見つけてみてください。

■保育士ライター 佐野希子
18年目の現役保育士。独学で認定試験に合格し、幼稚園教諭の資格も取得。他に社会福祉士の資格も保有。現在は副主任として保育現場の指導とサポートに努めている。
18年目の現役保育士。独学で認定試験に合格し、幼稚園教諭の資格も取得。他に社会福祉士の資格も保有。現在は副主任として保育現場の指導とサポートに努めている。
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