2015年に「ワールド・テクノロジー・アワード」にて最も優秀な研究者として選ばれ、「現代の魔法使い」の異名を持つ落合陽一さん。前編ではキッズライン 代表・経沢香保子と教育論について議論しました。

後編のテーマは「シングルマザーと日本の育児の問題点」。シングルマザーの本質的な問題点は?日本の育児は都市構造に問題がある? 2児のシングルマザーでもある経沢香保子が、落合陽一さんと解決の糸口を探ります。

シングルマザーは一つの選択肢。良い悪いもない

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経沢:後編では「シングルマザーや日本の育児」について、落合さんのご意見を伺えればと思います。

シングルマザーって今110万人(*1)くらいいると言われています。落合さんの周りには、シングルマザーの方っていらっしゃいますか?

落合:どうだろう……あ、結構親しい人にいますね。シングルマザーとしてあまり意識していなかったです。

経沢:実は世界でもシングルマザーの数が増えてきているみたいなんです。

それって女性が自立してきているとか、結婚制度以上に生き方が多様化してきているとか、いろいろな見方ができると思うのですが、シングルマザーという選択について落合さんはどう思われますか?

落合:それぞれ家庭の事情があるので、良し悪しは判断できないですね。しかし、結婚制度自体が破綻しているのは間違いないと考えています。

結婚制度が、男女間の賃金格差を生んでいる

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経沢:結婚制度自体が破綻している。それはどうしてですか?

落合:結婚制度があるから、社会の中で女性の労働賃金が払われにくくなっているような気がしています。

結婚制度とそれを取り巻く環境の歴史を紐解いていくと、配偶者控除が導入された1960年代は高度経済成長期で、「正社員の終身雇用」「年功賃金」「妻は専業主婦」という価値観が社会を支配していました。

1988年には配偶者特別控除が導入されますが、その制度設計には「夫は正社員・妻はパート」という価値観が反映されています。

そのコンテキストがまだ色濃く残っていると考えると、現代女性にとって結婚制度にはメリットとデメリットがありますよね。

経沢:結婚制度のメリットはなんでしょうか?

落合:結婚をして家庭というユニットで活動することによって、キャッシュフローは安定し、子育ては余裕が生まれますよね。

そして家庭という子育ての場所が確保されていることで、子どもが不特定多数の存在から切り捨てられるリスクは減ります。
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経沢:なるほど。では、デメリットはなんでしょうか?

落合:祖父母・親のリソースで子育てをする高度経済成長期からのライフスタイルが前提になってしまっているため、子育てしながら働く現代の女性にとって、労働条件や労働環境が整っているとは未だに言いづらいでしょう。

経沢:そうですね。同じシングル家庭でも、女性が働くことが前提となるシングル家庭の平均年収が243万円なのに対し、父子世帯の平均年収は420万円(*2)だったりと、格差は大きいです。

落合:親の介護を例に出すと、子育てと同様の問題が発生します。

男性は高確率で40代〜50代になると介護に直面しますが、「君のお父さんは腎臓病だから」という理由で男性の賃金が上がりにくいことはないですよね。

男性が介護によって賃金が下がることはないのに、育児によって女性の賃金が下がりやすくなっているのは、男女の雇用機会が均等であるはずの現代においてあってはならないことだと思います。
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落合:でも、実際にそういった問題は発生している。結婚のデメリットは男女間で賃金格差が生まれてしまうことだと考えていて、本当は一人ひとりが個人の能力で語られる社会であるべきだと感じています。

経沢:家庭を持った女性を、安定した労働力とみなさない経営者が多いということでしょうか?

落合:はい。事務職の女性を、途中で退職することを前提に多めに採用することって未だにありますよね。

でも、本来であれば人を採用するのに性別は関係ないはず。行政も企業も、少子高齢化の中で真に性差のない制度設計を行う必要があるでしょうね。

採用される側も、「女性は賃金が上がりづらい」「女性が家庭の役割を担うべき」という認識を持っているから、あまり問題として意識されていないのかもしれません。

経沢:そうですね。「女性の賃金は上がりづらくて当然」という暗黙の了解があると感じています。

シングルマザーの方も、子育てを抱えているために就業機会を得ることが難しく、一般的には貧困のサイクルに陥りやすいと言われているそうです。

子育て支援者が足りないのが一番の問題

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経沢:先程、「シングルマザーに良いも悪いも判断できない」というお話があったと思うんですけど、まさにそのとおりだと思っていて、シングルマザーって1つの選択肢と思うんです。人それぞれ事情がちがいますからね。

とはいえ一般的には「シングルマザー」と聞くと「貧困で子供がかわいそう」と思われがちで。世間的にはマイナスのイメージのほうが大きいのかな、と。

落合:え、そうなんですか?僕の知り合いのシングルマザーは全然貧困じゃないので、そんなイメージは全くないですね。

経沢:シングルマザーの平均年収は低いと言われていて、さらに旦那さんが養育費を支払わないケースも8割近くだそうです。

さらに子育てをしているから、良い条件の仕事にめぐりあうのも難しい。

私は、シングルマザーにとっての問題は「子どもの預け先がない」ことだと考えていて、それを変えたいと思っているんです。

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落合:シングルマザーの本質的な問題点は何だろう。シングルファーザーでも同じ問題は発生するのでしょうか?

経沢:はい。要は「育児の協力者が圧倒的に少ないこと」が本質的な問題だと思っています。夫婦だったら二人分の戦力があるし、親戚も頼れる場合には、育児の協力者は増えていきますよね。

でもひとり親だと育児をするのが自分か実家だけになってしまって、孤立しやすい。もっと社会全体で育てていければ流れは変わってくるはずだと信じて、私たちは挑戦しています。

落合:確かに。仮に僕がいま息子と二人だけで暮らしたらすごく大変だろうな……。

シングルファーザーになる確率が低いからシングルファーザーの問題が表沙汰にされないだけで、要は「ワンオペ育児が大変だ」ということなのでしょうね。

核家族は、子育てに一番向いていない形態

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経沢:ワンオペ育児について、落合さんはどうお考えですか?

落合:ワンオペ育児に代表されるように、日本で起きている育児の問題は、核家族化したことが原因だと僕は感じています。

核家族って、子育てに一番向いていない形態で。核家族だと結局人の手が足りず、現状は人を呼ぶか保育園を上手く使うしかないですよね。

そもそも、核家族化したのは何故かというと、都市部に人が集中したからなんです。都市部に人が集まりすぎていて、いざ育児で実家を頼ろうと思っても離れているから頼れない。

そういういびつな状況が、ワンオペ育児などの問題を生み出しているのは間違いないと思います。

経沢:なるほど。都市構造的にワンオペ育児になりやすい、と。

落合:はい。僕もワンオペ育児は大変だから避けたいと思っていて。うちは妻とツーオペだし、場合によっては周囲に頼ってスリーオペでやっています。

経沢:スリーオペ、いいですね。

落合:民俗学の中で語られていることですが、昔はある特定の場所に人が集って、子どもを集団で育てる社会もあったようです。

今の日本にそのような文化はないから、自治体の子育てサポートや、アプリによるバーチャルな子育ての仕組み作りをするといいのかな。

経沢:そう、昔は「子ども一人を育てるのに村一つ」と言われていたぐらいなんです。

私たちはバーチャル上にそういった子育ての村を再現したいと思っていて、スマホですぐにベビーシッターを呼べるキッズラインを、その一つの解として提案したいのです。

落合:確かにベビーシッターさんが集まって一つの村のようになっている仕組みは新たな社会の一つと言えそうですね。

経沢:ありがとうございます。

DVされているくらいなら、離婚したほうがいい

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経沢:「シングルマザー=かわいそう」という偏見が凝り固まってしまうのは良くないと個人的に思っています。

例えば旦那さんからDVを受けている、モラハラがすごいなど、別々に暮らした方が、お子さんにとってもママにとっても幸せなケースもたくさんあると思うんです。

だけど世間からの偏見があるから、選択肢が限られるとなると逃げ場がないですよね。そういったことも含めて、もっと自由に生きられる社会を創りたいと思っています。

落合:そうですね。旦那にDVされているならば、すぐ別れたほうがいいですよね。

経沢:はい。だから今回シングルマザーの方に、「抱え込まなくていいよ」「もっと頼っていいよ」「選択肢はほかにもあるよ」というメッセージを発信したいと思っていて。

落合さん、テクノロジーでシングルマザーがもっとハッピーになれるような方法ってありますか?
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落合:子どもが一人で自分の面倒を見るテクノロジーがあればいいのですが、子どもだと自己判断ができないので、子どもの自立を完全にサポートする技術の開発は難しいでしょう。

ただ、子ども側を自立させるのは不可能だとしても、保育者側をサポートする技術は成立しし得ると考えています。例えば、保育者1人で10人の子どもを同時に見られるようにサポートする技術とか。

そういったテクノロジーが進歩していけば、今後「子どもの預け先がなくて就業機会がなくなってしまう」という課題も徐々に解決されるのではないでしょうか。

女の子はピンク色の道に縛られないで

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経沢:最後に、落合さんにもしお嬢さんが生まれたらどういった教育をしたいですか?

落合:それ、最近よく聞かれます(笑)女の子のステレオタイプに育てたくないので、好き放題やらせてあげたいですね。

前にどこかのブログで、「日本では、女の子にはピンク色の道しかない」という文章を読みました。

要は日本だと生まれた瞬間からピンクを着せられて、女の子らしくあることを求められるけれど、それは根本的に間違えていますよね。

「女の子だから」「男の子だから」というどちらの圧力もあると思うのですが、日本だと特に「女の子だから」というプレッシャーが強いように感じています。だから、ピンク色の道に縛られない育て方を僕はするでしょうね。

経沢:そういえば、先日娘の授業参観に行ったとき、壁に貼ってある自己紹介の画用紙に、娘が「好きな色は青と緑」と書いていて、思わず笑みがこぼれたのを思い出しました。

一人一人が、堂々と、好きなものが好きと言えて、自分らしい道を選ぶようになったとき、みんなの笑顔が増えるのかもしれませんね。落合さん、ありがとうございました!
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落合さんの「本来は一人ひとりが能力で語られる社会であるべき」という言葉に、励まされた方も多いのではないでしょうか。シングルマザーもそうでない方も、自分らしい選択ができる社会にしていきたいですね。

(取材・執筆:あつたゆか

*1 「シングル・マザーの最近の状況(2015 年) 総務省」
*2「平成28年度 全国ひとり親世帯等調査」