キッズラインで生き生きとお仕事をされているサポーターの方に、働き方の工夫ややりがいについてお伺いする連載企画。今回お話を聞いたのは、昨年にろう(聾)のシッターとして、初めて東京都ベビーシッター利用支援事業の認定を受けた堀口祐里さんです。「耳が聞こえない」という個性を生かして、さまざまなご家庭の支援を行っている堀口さんに、保育士としてのこの仕事への思いを伺いました。

職業として保育士を目指した理由






――現在はどのようなお仕事をされているのでしょうか?

最初は新卒の時に保育園に就職して約5年間、0〜3歳児の担任をしていました。
4年前に保育園を退職して、現在はベビーシッターを中心に、ろう(聾)学校の乳幼児教育相談の相談員もしています。他にも、病院で耳が聞こえないと分かった子の親への相談支援、保護者への手話指導などいろいろと活動しています。

――保育士資格は大学で取得されたんですね。

高校卒業後に保育科のある大学へ進学して、必要な単位を取って保育士資格を取得しました。見学した大学によっては「入学は難しいかも」と言われた学校もありました。しかし、私が入学した大学は「これからは耳が聞こえない保育士も必要になる」というスタンスで、保育士への道を開くことができました。

――保育士を目指そうと思った理由は?

自分自身が0歳から保育園に通っていて、とても好きな先生がいたんです。卒園してからもその先生とお付き合いが続いていて、「自分もいつか先生みたいになりたい」と憧れていました。
それから中学生の時に、自分が卒園した保育園に職業体験に行った時の体験も大きく影響しました。たまたまお手伝いしたクラスにろうのお子さんがいて、保育士の先生方は簡単な手話でコミュニケーションをしていたんですね。そこで私がパズルをしていたその子に手話で話しかけると、顔がぱぁっと明るくなったんです。その子はもっと話したかったという風に、矢継ぎ早に手話で私に話しかけてきてくれました。その時、「私が保育士になれば、手話を必要とする保護者や子どもの力になれるかもしれない」と感じました。

大学卒業後、保育園で働くという夢を実現


インタビュー1

――大学卒業後は、保育園で働かれたんですね。

大学で保育士の資格を取っても、保育の現場で働くのは難しいのではないかと言う人もいました。実際、保育士資格を持っていても、保育園などの現場で働いているろう者はごく少数です。
でも、私の両親は常に私を認めてくれて、どんな時も私にはできないと反対したことがありませんでした。なので、自分自身で「壁」を感じることなく、「保育園で働きたい」という思いを実現することができたのだと思います。

――保育園で子どもたちとはどうやってやり取りしていましたか?

0〜1歳くらいの低年齢の保育は、言葉ではないコミュニケーションなので、問題なく進められます。
子どもたちはとても賢くて、「声で呼んでもゆり先生は振り向かない」ということを理解し、用事があるときは目の前に来たり、トントンと肩を叩いてくれていました。
幼い頃から私が担当していた子どもたちとは、簡単な手話でコミュニケーションをとっていたので、2歳くらいになって発語するようになっても、私に対しては手話を使ってくれたりもしました。

――親御さんとはどのようにしていましたか?

年度初めにはクラス担任として、親御さんに「やり取りは筆談になります」と説明しました。幸いにも人に恵まれていて、大きな困りごとはなかったですね。

ただ、子供がケガをして病院に付き添う場合には、コミュニケーションや、安全を考えて他の先生に行っていただくことが多かったのですが、親御さんへの報告の際に「病院ではそう言われたらしいです」と自分が付き添っていないために、間接的な言い方になってしまうことで不安を与えてしまうこともあったので、病院の付き添いについては後に職員間で相談・見直しをして、自分のクラスの子がケガをした場合は、担任としての責任を持って自分が付き添って行くことになりました。

――保育以外の業務はどうしていましたか?

保育園の玄関のインターホンが聞こえないことについて、園長先生から「自宅ではどうしているの?」と聞かれたんですね。家ではインターホンがなるとランプが光る機械を使っていると伝えたところ、園でも機械を買ってくれたんです。
園長からは「これならあなたもインターホン取れるでしょ」と言われ、ランプが鳴って画面に保護者が映っていれば開錠することもしていました。私にはできないと思い込んでいた仕事も、周囲の工夫と理解でできるようになりました。

子どもたちと接しながら自分のできる保育を模索


サポートの様子

――保育の中で悩んだことはありましたか?

最初の頃は子どもが私に話しかけてきた時に、聞こえる先生と同じように「分かってあげなきゃ」と焦って周りに頼らず何度も聞きなおして、子どもが怒ったり、話すことを諦めてしまったことに落ち込んだりもしました。
しばらくしてからは「自分は聞こえないのだから、無理に他の先生と同じようにしなくてもいい」と思い直して、話しかけられて分からないことは、他の先生に通訳を頼むようにしました。

他の先生には「なんて言っているか教えてもらえますか?」とだけ頼み、聞いてくれたその子には私から答えるようにして、子どもとの関係性を築くようにしました。
また、私に話しかけてくる子に「うん、うん」と相槌しか打てないことを他の先生に打ち明けたところ、「0~2歳の間は、聞いてくれているというだけでその子は満たされると思うよ」とアドバイスをもらい、心が軽くなりました。

――保育園を辞めたのはどんな理由ですか?

就職した時は低年齢の子だけを受け入れる小さな保育園だったのですが、途中で3歳以上の子も受け入れて規模が拡大しました。園が大きくなって、保育士の仕事量が増えてしまい、本来自分が求めていた一人一人に寄り添った保育ができなくなってしまいました。
子どもを急かすような保育をすることで、自分も疲れてしまったのかなと思います。

「フリー 保育士」で検索してキッズラインへ


インタビュー3

――キッズラインとの出会いは?

保育園を辞めて転職しようと考えたのですが、保育園以外にもいろいろなことをやってみたいと思い、スマホで「フリー 保育士」と検索したんです。
そうしたら、一番上にキッズラインが出てきたんですね。そこで初めて「ベビーシッター」という働き方を知りました。「キッズライン」のHPを見て、一つの組織に所属せずに自由な活動ができることに魅力を感じて、登録会に参加することにしました。

――キッズラインの選考はどうでしたか?

登録会には手話通訳者と一緒に参加したのですが、耳が聞こえないからといって、門前払いされることは一切なく、フラットに接していただきました。面談の際にも、私や手話通訳者に対してオープンマインドで、終始困ったことはありませんでした。

――登録の際に取り決めなどはありましたか?

キッズラインからは当初、サポートが30回を超えるまでは2歳児以上のサポートというルールを伝えられました。しかし、私自身が0〜2歳の保育を専門にしていることや、これまでの経験、安全面などを擦り合わせた結果、特例で最初の内だけ「保護者が在宅であれば、3ヶ月のお子様から保育可」にしていただきました。
それからプロフィールに「耳が聞こえないこと」を記載すること、ユーザーから予約依頼が入った場合はまずメッセージでやりとりして、コミュニケーションが筆談になることを了承してもらうことなどを取り決めました。

耳が聞こえないからこそ気づける赤ちゃんのサイン






――初めてのサポートはいかがでしたか?

一回目のサポートは、お母様が在宅中に0歳の赤ちゃんを見てほしいという依頼でした。事前のやり取りで「耳が聞こえない」ことをお伝えしたところ、お母様から「全然大丈夫です」と言っていただけてホッとしました。保育園でも0歳を見ていましたし、乳幼児のサポートについては不安なく対応できました。

――堀口さんならではの保育とは、どんな点にありますか?

やはり一つは「手話」です。手話が必要なお子様に保育を提供できるという点ですね。
もう一つは、聞こえる聞こえない関係なく、0〜2歳の発話のない乳幼児とのコミュニケーションができることです。普段から言葉でコミュニケーションをしている大人は「言葉を発さない子どもとどうやってコミュニケーションをとればよいか」不安を抱えている方も多く、実際に「どう接したらよいか」と相談される親御様もいらっしゃいます。

でも実は子どもたちは言葉を使っていないだけで、たくさんのことを目線の動きや表情、身振りなどで伝えているんですね。
私は、言葉ではない子どもからの発信を細かに感じ取ることができるので、親御様に「お子さんはこうしたいんだと思います」とお伝えすると、「教えてもらうまで分からなかった!」と喜ばれることもあります。

――具体的にはどういったことから赤ちゃんの意思を感じ取るのでしょうか?

例えば1歳に満たないお子さんでも、食事をする際にこれが食べたい、これは食べたくないということを細かな表情で表したりします。あくまでも私の視点なので、他の保育士さんが同じように捉えるかはわかりませんが、音ではないコミュニケーションを拾っています。

――手話を使うこともあるのですか?

簡単な手話やベビーサインで発話のない時期の子とやり取りすることもあります。ベビーサインは、単語のみでご家庭によっても違うなど、文章になる手話とは異なります。
手話にも赤ちゃん手話といって、喃語のような簡単なものがあるので、幼い子には赤ちゃん手話で話しかけたりもします。

東京都ベビーシッター利用支援事業にろうのシッターとして初認定


サポートの様子1

――昨年、東京都ベビーシッター利用支援事業の認定を受けられたんですね。

ご依頼いただいているユーザーさんが引っ越しをされて、その区で東京都ベビーシッター利用支援事業があったことから、利用したいという相談があり、それならばと認定を受けることにしました。

――東京都の研修はどうでしたか?

研修の際に「手話通訳者を連れて行ってもよいですか」と聞いたところ、東京都の方で手話通訳者を手配してくださり、ありがたかったです。内容を理解できるように、工夫してくださったので、困ることなく受講できました。

――安全面についてはどのような話をしましたか?

当初はやはり聞こえないことについて、東京都の方も心配があったようです。私自身は大丈夫だと思っていましたが、自分では気付いていないこともあるので、どんな点が心配なのか具体的に教えてもらいたいとお願いしました。

――具体的にはどういった点を擦り合わせましたか?

例えば災害が起こった時に対応できるのか、サイレンなどが聞こえない時はどうするのか、緊急時の連絡手段はどうするのかといったことです。

緊急事態の音が聞こえないことへの対策は、スマートフォンの「サウンド設定」でサイレンや水の音などを登録しておくと、その音が鳴っている時にスマホが教えてくれるサービスがあるので、それを日常から利用しているとお話ししました。
緊急時の連絡手段については、ろう者が利用する「電話リレーサービス」を使って、通訳者を介して自分で電話を受けられるという方法があることを説明しました。
一つ一つ心配なことに対して、日常での対応をお話しすることで、懸念や疑問点を解決していきました。

――認定を受けて変わったことはありますか?

私自身は特に変化はないですが、ユーザーさんが依頼する際に、金銭的な負担が減ったのは嬉しいですね。

ベビーシッターにならなければ出会えなかったご縁


インタビュー4

――ベビーシッターになって良かったと思うことは?

ベビーシッターにならなければ出会うことがなかった人たちに出会えたことです。
ある時、健常者のお子様のシッティングに行った際、お母様から「後で手話を教えてほしい」と頼まれました。そのお母様は、ホスピスで働かれている看護師さんでした。職場でろうの患者さんがいて、コミュニケーションが取れず悔しい思いをしたんだそうです。それでシッターにわざわざ私を選んでくれたと聞いたときは、嬉しかったです。

また別の兄妹のごきょうだいのご家庭では、生まれたばかりの妹が病院で耳が聞こえないかもと言われて、診断待ちということでした。そこで親御さんから私に、お兄ちゃんの保育後に「時間があれば別途で妹のことを相談したい」という依頼がありました。診断が下るまで不安を抱えて過ごすよりは、ろう学校に相談に行くこともできるなど、私なりのアドバイスをすることができました。

今は聞こえない子、聞こえる子の区別なくサポートをお受けしているので、いろいろなご家庭に出会えるのが喜びです。保育園で働いているときには会えなかった方と、ベビーシッターになったことでご縁がつながったと感じています。

――キッズラインでやりがいを感じる場面は?

サポートが終わった後に、親御様からレビューを頂けるのが嬉しいですね。
保育園にいた時には、その日の保育について保護者から評価をしてもらったり感想をもらうことはないので、自分の保育がこれで良かったか悩むこともありました。キッズラインでは保育の感想が直接届くので、自信が持てたり、次も頑張ろうという気持ちになります。
もちろん「もっとこうして欲しかった」などご指摘をいただいて反省することもあります。率直なご意見から自分が気付かなかったニーズを知ることができるので、自分のキャリアを積んでいく中でとてもやりがいを感じます。

耳が聞こえない子どもたちのロールモデルになりたい


サポートの様子2

――耳が聞こえないお子様やその親御様に伝えたいことは?

ろう者の子どもたちの中には「あれはできない」「これは無理だ」と言われることもあると思います。親御様も「わが子には難しいのではないか」と考えることもあるかもしれません。そんな子どもたちに、私自身が保育士という夢を実現し、ベビーシッターとして活動していることを知ってもらい、「できない」のではなく、自分が「どうしたらできるか」を考えてもらえるようになってくれたらと思います。

――これからどんな仕事をしていきたいですか?

今までも保育者としてのキャリアを自分が積んでいくことで、ろう者の子どもたちのロールモデルになりたいと思ってきました。これからも「耳が聞こえなくても保育士になれるんだよ、こうして仕事ができるんだよ」と示していきたいと思っています。
そして、これからは「手話で保育をしてほしい」という依頼がもっと増えてくるはずで、自分一人で対応するのには限界があります。なので、手話で保育ができる人の養成にも関わっていけたらと考えています。


――インタビューを終えて――
太陽のような笑顔で生き生きとお話してくれた堀口さん。柔らかな表情と温かみのある雰囲気に、包み込まれるような安心感を覚えました。堀口さんのインタビューや保育の様子は、一部動画でもご覧いただけます。今後の堀口さんのますますのご活躍と、新たなご家庭との出会いを心から応援しております!
堀口さん、貴重なお話をありがとうございました!

▼堀口祐里さんのプロフィールページはこちら

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